鬼の子
放課後、僕達は寮に戻るとすぐに奇襲の一件に対応する緊急会議を開いた。
拘束している藤澤君の事もあり場所は広々としたが部屋がいいと言う事だったので、まだ殆ど何も置いていない僕の部屋で行うことにした。
部屋の中央には腕を後ろで縛られ拘束された藤澤君が無言で目を瞑りながら正座し、それを僕らが囲む形で話し合いは行われている
「ホント、やってくれるぜ、G組も……」
「ええ、まさかここまでやってくるとわね。」
若田部君と、飛葉さんの二人の幹部が頭を抱えている、当然だと思うし皆んなもほとんど同じ気持ちだろう。
極道の流儀を徹底するこの学校で 、別の組の縄張りに潜み襲撃をするなんて誰も考えもしないほどの愚行だ。
教師達もG組に対する処遇を困り先ほどまで協議をしていたくらいだった。
そして協議の結果、怪我人が出なかった今回に限り、厳重注意に終わり、後は両組内で話し合えとのことだった。
「で?今回の件に関してGの動きは?」
「あ、それならさっきG組から文が来たよ!」
喜田さんが手にする封筒を持ってくると飛葉さんが中を開け、入っていた手紙を口にしながら読み始める。
文には典型的な謝罪からはじまり、今回の一件の事が長々と書かれているが、内容を簡単に要約すれば、奇襲行為は藤澤君の独断で行なったことで、こちらは関係ないから藤澤を好きにしてほしいとの事だった。
その文を聞いたみんなが黙り込む。
「……要は鉄砲玉ってことか……」
「ま、大方予想はついていたけどな。」
「で?どうする?一応この時点で藤澤はG組から除外されたことになるけど……」
今更藤澤君を痛めつけたところで意味はない、しかし、だからといって何もしないでいるほどみんなも優しくもなかった。
「どうするもねえだろ?こっちは組長狙われたんだぞ!例え意味がなくても五体満足で放しちゃメンツがたたねぇよ!」
その言葉に一同頷きあう。
藤澤君もその話を聞いてもなんの反応もない、もとより覚悟の上なのだろう。
「ま、と言うのが僕たちの考えだけど、どうするの組長?」
「え?」
「僕らが言うのはあくまで意見だからどうするかは組長の判断だけど……」
唐突に話を振られ思わず戸惑うが、それ以上に普段こう言う会議には余り口を挟まない横田君が入ったことに少し驚く。
ハッキリ言ってこういう話は苦手だからみんなの意見に合わせたい、ただ結論を出す前に少し気になるところもあった。
「ねぇ、藤澤君、一つ聞いていい?」
藤澤君は返事を返さない、なので一方的に聞いてみる。
「どうして君が鉄砲玉にされたの?あれって、本来下っ端の人達がやらされることなのに、参謀の藤澤君がやらされるのかなぁって……」
鉄砲玉は本来命を落とす前提で送られるのだ、立場上、上の者がするなどありえないだろう。
僕の質問にしばらく黙り込んでいた藤澤君だったがこちらもひたすら答えを待ち続けると、藤澤君は態度を変えないまま口を開いた。
「……今回の一件はあくまで僕が独断で動いたことだ、G組の指示は関係ない。」
「んなわけねぇだろ!テメェこの場に及んでまだ――」
胸倉を掴み殴りかかろうとする若田部君をまだ聞くことがあるからと、飛葉さんが抑える。
するとそんなやりとりを見ていた横田君が一つため息を吐くと、藤澤君に代わって代わりに答えた。
「大体予想はつくよ、どうせ同盟を切られ、焦り始めた沖原が八つ当たりも含め今回の全責任を君に押し付けたんでしょ?」
「な⁉︎」
「君がG組と折が合わないのはわかってたからね、断らない責任感だけは流石鬼の子いったところだよね」
「横田……」
図星だったのか無言を貫いていた藤澤君が動揺を見せ、ギリっと横田君を睨む。つまり藤澤君は組内で上手くいってなかったって事か、まあ確かに藤澤君はあのG組の中ではいたってまともな部類ではあったし性格的にもあってなさそうな感じもした。
しかしそれより横田君の言葉から気になるワードが飛び出した。
「横田君、藤澤君と知り合いなの?って言うか今……」
――鬼の子って……
「そう、この藤澤は組長が興味を持っていた藤澤の鬼と呼ばれた九鬼隆平の一人娘、藤澤渚さ。婿入りして姓が変わってるけどね」
――……
「え⁉」
「「ええぇぇぇぇぇぇぇ⁉︎」」
横田君の発言に僕だけでなく全員が驚きの声をあげる。
「藤澤君が、あの藤澤の鬼の……」
「こいつ女だったのかよ⁉︎」
そう、皆が驚いていたのはそっちだった。
「そ、それがどうしたって言うんだ‼︎男だろうが女だろう関係ない‼︎」
必死で反論するがやはり女性とわかると先程まで横暴に扱っていた若田部君も自重し始める。
「でもなんで男性の格好を……」
「元々藤澤はG組の組長に抜擢されていて、その際に舐められないように男を演じ続けていたらしい、まあなんでそれが参謀をしているかは想像に任せるよ」
「想像って……」
しかしだいだい想像がついてしまう。恐らくあの無法メンバーを扱いきれず上手く統率した沖原がそのまま乗っ取ったのだろう。
「で、でも横田君どうして知ってるの?」
全員の注目が一気に横田君に集まる。
「えーと、実は言うとね……九鬼隆平が藤澤組に入る前にいた組……つまり鉄砲玉にした組……あれ、僕の爺ちゃんの組なんだ……」
「ええ!」
またもや衝撃の事実。
「爺ちゃんは昔は結構野心家で、紅蓮会でのし上がる為に結構色々やってたみたいなんだ、まあやり過ぎた結果、失脚して今はヒッソリと暮らしてるけど。どうしてそんなに知ってるかの理由は今は伏せておくよ。」
「?」
最後の意味深な言葉が引っかかったが、横田君はそのまま話を強引に戻した。
「ま、少し話が逸れたけど、組長、どうするの?」
「え、えーと……」
ここで話を戻されても、まだ結論は出せない。先ほど知らされた事実に僕自身動揺を隠せない、て言うか、完全にその話を忘れてた。
横田君の話を聞けば藤澤さん?自身に悪意は無さそうだ、しかしもしここでお咎め無しにしたら例え女子だとしてもみんなが納得するのかが怪しい。
ただ、横田君がやたら僕に意見を求めていることが少し気になる。
――つまり、極道としての意見ではなく、僕自身が出せる答えってことかな……
それに期待しているのかもしれない。
――僕にしか出せない答え……か……
その言葉を心の中で呟くと僕の頭の中で一つの考えが浮かんだ。
「……ねぇ、藤澤さん。もしよろしければB組に来ない?」




