003 新人メイド
(そして、気づいたらこの姿になっていた)
どうやらこれが魂の実体化のようだ。
指輪は嵌めた者の生前の全盛期で実体化させてくれるという。
今のネリーネイオミの姿は、十代半ばの少女の姿だった。
「あなたが迷子の新人ね。えーと、ネネ……ネネ・ローザンね」
ジョンに寮へと案内された後、メイド長へと引き渡された。
メイド長はメガネをくいっとかけなおして、新人メイドの名簿を確認していた。
(私、新人メイドの応募も面談もしてないけど、したことになっている)
誤魔化す必要もなくするすると話は都合よく進んでいた。
いつのまにか、就職手続きは終わったことになっていて驚きを隠せないのはネネ自身だ。
(もしかして、死神さまが改竄してくれた? 私が動きやすいように)
あの赤髪・糸目の青年は何げに仕事をしてくれたようだ。
(胡散臭いと思って悪かったー)
ネネは心の中で死神に詫びた。
割り当てられた部屋の中で、ネネは改めて自分の体を確認した。
「体が軽いわ」
生前は起き上がることすら難渋して、力むと息苦しさを感じていたのが嘘のようだ。
試しにぴょんぴょんとジャンプしてみたが、難なくこなせてネネは感動した。
「もう、そんなに嬉しいの?」
若い少女に声をかけられて、ネネは心臓が飛び跳ねる程驚いた。
声をかけたのは同室の新人メイドのアンネだ。
今のはしゃぎっぷりで死者が蘇ったことがばれたのかもしれない。
(正体がばれたら指輪の効果はなくなるんだったわ)
「子供ねぇ」
予想外の感想が飛んできた。
「わかるわ。ラニテル公爵家に奉公できるもの!」
(どうやらはしゃいでいるのはアンネもみたい。はしゃぐ理由は違うけど……)
正体がばれた訳ではなかったようで、ネネは胸を撫で下ろした。
ふと胸に触れた指輪を見つめた。
黒真珠は艶やかに輝いていた。
「何、どうしたの? はしゃぎすぎて怪我でもしたの?」
アンネは心配してネネの指を見つめるが、指輪のことを全く口にしない。
(指輪は普通の人には見えないようね)
少し安心した。
こんな立派な黒真珠の指輪をしていたら色々と質問責めにあってしまうところだった。
(とりあえず、ここから7日間。私は、コンスタンスの愛人のことを調べて、コンスタンスを追及して、マーガレットにあれを渡さなければ……)
突然思い出した期限つきのノルマにネネは頭を抱えた。
今の自分はネリーネイオミではなく一介のメイド・ネネである。
新人メイドから見れば、雲の上の存在である公爵夫妻へ辿り着くのは至難の業だ。
正体もばらすことはできない。
正体がばれたら指輪の効果はなくなり、ネネは魂の存在に戻ってしまう。
(死神さまもけちね。せめて、1年くらいは時間をくれたらいいのに……)
とはいえ、ネリーネイオミは死んだ人間だ。
本来は生者と関わってはいけない。
それを特別に許してくれたのだ。
(ならば、この7日間できる限りのことはしよう)
ネネは改めて目標に向けて奮起した。




