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おばあちゃんは心配で、心配で、安らかに眠れません!  作者: ariya


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002 死神の指輪


「このままでは死ねない!」



 がばっと少女は起き上がった。


 真夜中、庭園の草むらで横たわっていたのに気づいた。


 月夜の明かりに照らされた拳をゆっくりと広げる。


 しわくちゃだった手は張りのある肌で、みずみずしいものだった。


「……」


 少女は庭園の噴水まで歩き、水面に映る自分をみた。


 くりくりとした翠の瞳は以前の鏡でみた姿とは変わらない。

 

 違うのは白髪混じりだった髪が亜麻色のふんわりとした質感になり、しわくちゃでたるんだ頬がすっと引き締まっていたことだ。


 指で触るとぷにっとした感触であった。


「すごいわ。これが死神の指輪の力なのね」


 少女は目を輝かせて指に嵌められたものを見つめた。

 黒真珠が嵌められた古い指輪である。

 先ほど死神から借りた代物で、今の少女の願いを叶えてくれた。


「むむ、そこの娘。何をしている」


 見回りに来た兵士に声をかけられて少女は慌てた。


「え、わ、わたし」


「ははーん、迷子だな。本日新入りがたくさん屋敷内の案内を受けていたが、はぐれてしまったんだろう」


 兵士はにやりと笑って「あたりだろう」と言った。

 あまりにあてずっぽうな話に少女は思わず笑いをこぼした。

 今の兵士の自信満々の笑顔があまりに可愛らしかった。


「ふふ……」

「な、何を……間違っていたのか?」


 今度は兵士が慌て出して、少女は首を横に振った。


「いいえ、そうよ。私は迷子なの」


「ふん、せっかくだから新入りたちが寝泊まりする寮棟へ案内してやる」


 兵士はくいっと指を示した。


「俺はジョンだ。お前は?」


「私は……ネネよ」


 少女・ネネは少し考える仕草をしてから、自身の名前を伝えた。


(せっかく使用人と間違われたし、そのまま流れに任せましょう)


 少女の正体は、ネリーネイオミである。

 このラニテル公爵家の、つい先程亡くなった大奥様だ。


 何故少女の姿になったかというとお迎えにやってきた死神に我儘を聞いてもらったからだ。


 ◆◆◆


 あっけなく心臓発作で亡くなったネリーネイオミの元へ死神が現れた。

 黒いフードが外されて、現れたのは肩まで長い赤髪に、糸目の青年だった。

 骸骨のような外見を想像していたネリーネイオミは意外そうに死神の姿をまじまじと見つめた。


「お迎えにあがりました。ともに冥府へいきましょう」


 死神は優しい声でネリーネイオミに手を差し伸べた。


「そんな訳にはいかないわ!」


 ネリーネイオミは死神の手を拒んだ。


「孫夫婦の一大事よ! 孫が浮気していたの。マーガレットがいながら! マーガレットにはまだ子供がいないのよ。愛人に子供ができたらマーガレットはどうなるの! 孫が何でそんな不貞を犯したのか問い詰めなければいけないわ」


 孫夫婦の事情をはじめて知って動転したまま臨終を迎えてしまったのだ。

 混乱してうまく整然とした言葉が出なかった。


「おお、ネリーネイオミ。落ち着きなさい」


 糸目の死神はどうどうとネリーネイオミの興奮を鎮めようとした。


「それはもう死んだ君には関係のないことだ。後は孫夫妻のこと。君ができるのは見守ることだ」


 納得できない。ネリーネイオミは叫んだ。


「そんな訳にはいかないわ! あの子に問い詰めないと、このままじゃ死んでも死にきれないわ!!」


 それはそのはず。


 ネリーネイオミの前の公爵夫人が、愛人のことで病んでしまったからだ。

 夫はその件で愛人を持つことはなくネリーネイオミを大事にしてくれたが、義母の憔悴した姿は思い出す度に胸が痛んだ。


「マーガレットも私が育てた子よ。あの子が、愛人で頭を抱えることになるなんて……そんなこと黙って見守れるものですか!」


 てこでも動かない気配のネリーネイオミに死神は呆れた。


「わかりました。では、その愛人問題を確認すれば気がすむのですね」


「……」


「ネリーネイオミ」


 黙るネリーネイオミに死神が声をかけた。

 その間ネリーネイオミは考えた。


 愛人がいたことが判明したら、マーガレットの心身を守る為に色々渡さないといけない。


「ええ、そうよ」


 ネリーネイオミの言葉に死神は頷いた。


「よろしい」


 死神は指輪をネリーネイオミへ委ねた。


「期限は7日だけ差し上げましょう。その間、この指輪を貸します。思い残すことがないようにしてください」


「ずいぶんあっさりと許してくれるのね」


 死神といえば、恐ろしい存在で、規律に厳しい存在と思っていた。

 伝承の冥王がそうだったから。


「ネリーネイオミの生前の行いは神々に認められるほどの功績でした。彼らがネリーネイオミの願いがあれば一つだけ叶えてあげてと強い要望があります」


「生前の功績……」



 ネリーネイオミは黒真珠の指輪をじっと見つめた。

 あっさりと自分の願いを聞き届ける死神に胡散臭さを覚えていた。


「いらないのであれば結構です。さっさと冥府へ行きましょう」


 死神が指輪を懐にしまおうとして、ネリーネイオミは慌てて両手を差し出した。


「待って! 必要よ! 貸してちょうだい!!」


 胡散臭い話であるものの、他に手立てはないのだ。

 今は死神の提案に乗るしかない。


「ここで注意事項を。期限は7日、そして自分がネリーネイオミと正体が明かされないように注意してください。正体が明かされれば、即指輪の効力はなくなります。その時は、お迎えにあがりますよ」


 説明を聞きながら、ネリーネイオミは指輪を嵌めた。


 

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