028 【7日目】
ネリーネイオミが亡くなり7日目。
ラニテル公爵家、領地都市にある教会で、先代公爵夫人ネリーネイオミの葬儀が執り行われた。
参列者が見守る中、最後の別れの時が訪れた。
「お祖母様。どうか、安心して安らかに眠ってください」
コンスタンスは花を添えながら棺の中で眠るネリーネイオミを見つめた。
「愛してます」
その言葉を聞いて、ネネは思わず声をかけた。
「私も愛しているわ」
魂の姿になり、もうコンスタンスには届かない。
ただ柔らかな風がそよいで、コンスタンスは思わず微笑んだ。
次に、マーガレット。
「大奥様……大奥様が残してくださったものを私は大事にします。だから、安心して……お祖母様」
最後に呼んだ初めての呼び名にネネは胸がきゅんとした。
「もう、もっと早く呼んで欲しかったわ」
お祖母様と。
マーガレットは真面目だから、なかなか呼んでくれなかったのをよく覚えていた。
続いて、ネネの親しい者たちがネネに花を添えた。
カレンは両手いっぱいの赤い花びらを見せた。
葬儀に赤いものを持ち込むなどと咎める者はいない。
ネリーネイオミが赤いプラムブロッサムを好んでいたからだ。
「ネリーネイオミ様、私はまだこちらにいようと思います」
一度は殉じることを選んだが、ネリーネイオミが望まないことと知りカレンは生きることを選んだ。
「そうよ。カレン。あなたは若いのだから、しわくちゃのおじいさんになるまで来てはダメ」
ネネの言葉は聞こえないはずだが、届いたかのようにカレンは笑った。
ネネが言いそうなことを思い浮かべていたのだろう。
「もし、叶うなら……」
周りに聞こえない声で、カレンは改まって告白した。
「もっと早く生まれて、先代閣下より先にあなたに出会いたかった」
「あら」
あまりに真摯な言葉にネネは思わず声をあげた。
「私が迎えに来ているのを知っていながら、いい度胸だな」
アレクサンダーはカレンの前へ出て、厳しい視線を向けた。カレンにはアレクサンダーの声は届かないのだが、カレンに詰め寄るアレクサンダーの姿はみっともない。
「まぁ、あなた。子供相手に大人気ない」
ネネはアレクサンダーをなだめた。
「それにカレンのあれは、子供が母親に『大きくなったらお母さんと結婚する』と言っているようなものよ」
微笑ましいものとして、ネネは受け取っていた。
ネネからしたらカレンは孫なのだ。
「全く、君がそう思うから安心だが、君が魅力的だからすぐに男が接触してきて気が気ではない。いくら牽制しても足りない。あのジョンという男も……」
その時、いつぞやジョンと手を繋ごうとした時のことを思い出した。
「あら、もしかして以前の静電気はあなたの仕業だったの?」
今更知った事柄にネネは呆れた。
アレクサンダーは唇を尖らせて、ネネに手を差し伸べる。
「もういいだろう。早く冥府へ行くよ」
「えー、せっかくみんなが私に会いに来てくれたのに」
ネネとしてはみんなの言葉を聞いてから冥府に向かいたかった。
「私は何年もネネとこうして再会するのを心待ちにしていたのだよ」
夫の拗ねた声にネネは仕方ないと困ったように笑った。
「それじゃ、みんな。さようなら……愛しているわ!」
最後に振り絞って出した言葉は柔らかな風となり、参列者の頬を撫でた。
人々はそのぬくもりに触れて、穏やかな気持ちになった。
こうして、ネリーネイオミの死後7日間のどたばた記録は終了した。
◆◆◆
「私は帰ったらレセプト業務が戻っていますが……」
今回、何かとサービスを弾ませた糸目の死神は、深くため息をついた。死者にサービス提供したら、その分の正当性を報告する必要があるのだ。
冥府の道を進む夫婦を見ては、「まぁ、いいか」と呟く。
ネリーネイオミはアレクサンダーの手をしっかりと握り、幸せそうだった。
(終わり)




