027 魂に戻る
ネネは顔を赤くして、両手で顔を隠した。
「ああ、恥ずかしい。私のはやとちりなんて」
「うんうん、ネネは時々暴走してポンコツになるところがあって大好きだよ」
アレクサンダーは優しい眼差しでネネを見つめた。
彼の好物はネネのポンコツぶりだった。それを久々に摂取できて満足だった。
「お祖父様、相変わらず性格悪いですね」
コンスタンスは呆れて呟いた。
一回ため息をつき、すぐにネネに声をかけた。
「今回の件は、お祖母様のおかげです」
「え? 私?」
自分がしたことはあちこち引っ掻き回すことくらいだ。
「お祖母様が長年、公爵領内の遺跡を見つけて、修繕して、土着神たちを元に戻してくれました。そのおかげで、私は土着神の加護を受けられて、魅了に抵抗できました」
それを聞いてネネは驚いた。
かつて、引き取ってくれた家の生業を手伝うことから始めた遺跡探索が、巡り巡って孫を守ることにつながるとは思いもしなかった。
「ありがとうございます。お祖母様」
コンスタンスのお礼にネネはじわっと胸が温かくなるのを感じた。
涙をこぼし、水滴はネネの手に落ちた。
その時、ネネは自分の体が薄れていくのを感じた。
周りを見ると、死神も、アレクサンダーも薄くなっている。
三人は彼らの姿が見えなくなってきたようだ。
おそらくネネもじきに見えなくなるだろう。
「お祖母様」
コンスタンスは立ち上がり、ネネに抱きついた。見てみると涙をこぼしている。
コンスタンスの涙はいつぶりだろう。
「あらあら、困ったわ」
ネネは優しくコンスタンスの頭を撫でた。
「困らせていいと言ったのはお祖母様です」
「そうね」
ネネはコンスタンスを抱きしめながらマーガレットに笑いかけた。
「マーガレット。この子をお願いね」
「はい。大奥様が守り続けたコンスタンス様も、公爵家も守ります」
マーガレットはかすれた声で約束した。
「くれぐれも、無理してはだめよ」
手を伸ばすとマーガレットは近づき、頭を撫でてもらった。
そして、カレンの方に視線を向ける。
「カレン……どうか、この子たちをお願いね」
「はい、ネリーネイオミ様」
カレンも、ネネに近づいた。ネネは手を伸ばして言った。
「まだ来ちゃダメよ」
頭を撫でられたカレンは困ったように笑った。
「はい、まだこちらにいます」
それを聞いてネネは安心した。
そして、ネネの姿は静かに薄れていき、三人の目には見えなくなった。
魂の実体化が完全に解けてしまった。
◆◆◆
夕暮れ時、ラニテル公爵家の領地都市に多くの馬車が入った。
周辺の貴族、豪族、有力商人が宿を取り、明日の葬儀に備えた。
下町の方でも人々が集まる。
宿が取れずとも、夜通し祈りを捧げて朝を待っていた。
みな、ネリーネイオミの葬儀に駆けつけたのだ。
そして、明日になればさらに人が増えるだろう。
「騎士団に見回りの強化を……」
コンスタンスは予想外の訪問数に驚きながらも、領地都市、周辺の治安への配慮を呼びかけた。
「あと、宿が取れなかった者に簡易屋根と毛布の手配を……せめて突然の雨露をしのげるようにしよう」
「雨は心配しなくても大丈夫だ」
いつのまにか、コンスタンスの傍にいたプラムが声をかけた。
プラムは空を仰ぎ見た。
「ネネの葬儀に、空にたくさんの土着神が集まっている。今日明日は良い天候に恵まれるだろう」
プラムの予想通り、その夜は外で過ごしても問題なかった。




