026 浮気の真相
ネネからの話を聞いて、コンスタンスは眉間にしわをよせてため息をついた。
「つまりお祖母様は私の浮気を聞きつけ、この世に留まったと……」
コンスタンスの総括に、マーガレットは付け加える。
「死神の指輪で7日間この世にとどまれた……あと1日あったのに」
最後の名残惜しい言葉に、カレンが続ける。
「閣下が正体を口にするから」
二人に責められたように感じてコンスタンスは叫んだ。
「待ってくれ。あの場面で、言うなと言われても……無理です」
コンスタンスは次第に声が小さくなった。
「それにしてもマーガレットもカレンも驚かないの? 死んだ人間がこうして現れるのは信じられるの?」
ネネは気になったことを質問した。
「ええ、実は『死神の指輪』は私の父方の故郷の伝承にあって……まさか、本当にあるとはと半信半疑でした。もしかしたらと思いながら、伝承では正体を見破ったことを伝えると指輪の効果が消える為黙っていました」
死神から聞いた話は正体を見破れば、指輪の効果は消えるということだった。
実際、見破られた上で名前を呼ばれるまでがセットのようだ。
(もう、それならそうと言いなさいよ!)
ネネはちらりと死神を見たが、彼は素知らぬ顔で窓の外を眺めていた。
(まぁ、だいたいの人は正体を見破ったら名前を呼ぶわね)
それなら正体がばれないように用心するしかない。
「私とコンスタンス様は昔カレンから聞きました」
どうやら三人とも死神の指輪を知っていたようだ。
「いつからわかったの? 私の正体」
ネネはおそるおそる質問する。
「私は、大奥様の手紙を受け取ったところで……あの手紙、汚れが全くなくて、インクの滲み具合と、匂いから新しくて大奥様が最近書いたのだろうと思いました」
ネネは顔を赤くした。
まさか、インクの状態で見破られるとは思いもしなかった。マーガレットは意外と観察眼に優れているようだ。
「ち、ちなみにカレンは……」
「ネリーネイオミ様が私の自害を止めたところで」
それを聞いてコンスタンスは叫んだ。
「待て! 今のどういう意味だ? 休暇をとるというのはそういうつもりだったのか! 勝手に死なれたら困るんだけど!!」
「だから、ネリーネイオミ様が止めてくださって生きているじゃないですか」
カレンはため息をついて現状を伝えた。
「あんなに必死に隠していたのに、バレバレだったなんて……どうして、バレていたのを言わなかったの?」
ネネは二人に尋ねた。
「7日のみとはいえ、もう少し大奥様といたかったからです」
マーガレットの理由に、ネネは思わず目を潤わせた。
「マーガレット」
「早く本題に入ってください。時間は有限です」
しんみりとした雰囲気に水を差す死神の声にネネはうんざりとした。
文句言いたいが、お零れで時間をもらっているから何も言えない。
「それで、コンスタンスの浮気だけど……確かマルヴィナ」
ネネの提示する議題にコンスタンスは右手を挙げた。発言させて欲しいという意思表示だ。
「まず言っておきます。私は浮気をしていません」
「はぁ? メイドたちの間であんなに噂になっていたのよ。庭園で抱き合っていたとか、いちゃいちゃいかがわしいことをしていたとか……」
「そう噂になるように仕向けてマルヴィナを油断させていたのです。後、いかがわしいことはしていません。マルヴィナの件はマーガレットも知っています」
コンスタンスの協力を求める声にマーガレットは他所を向いた。
「ええ、まぁ……」
複雑な表情を浮かべていて、ネネは首を傾げた。
「もう解決した問題なので、はっきり言います。マルヴィナは敵国の間諜員で、証拠を掴んで幽閉しました。昨日」
コンスタンスから出た新事実にネネは目を揺らした。
「つまり……どういうこと?」
たった数行の中に情報がみっちり詰め込まれて混乱していた。
「マルヴィナは敵国ラキアスの間諜員です」
「間諜員?」
「そうです。ひいお祖父様を堕落させた間諜員と同じ組織に与し、狙いは私を陥落しラニテル公爵家の力をそぎ落とし、公爵領をラキアス帝国の領土にすることでした」
先先代公爵を幽閉した時のことを思い出した。
確か、先先代公爵を堕落させた女は行方知れずとなっていた。
「あの女は学習して、私が弱い外見の女子を集めて養育していたようです。マルヴィナが最も都合の良い外見へ成長し、私の前に差し出されました」
「コンスタンスが弱い外見?」
ネネは首を傾げた。
隣に座っていたアレクサンダーはネネの髪に触れて微笑んだ。
「亜麻色の髪、白い肌に翠の瞳……髪質は違うけど、ネネの特徴だね」
コンスタンスは頷いた。
「確かに、はじめはお祖母様に似ていると彼女に興味を持ち……いえ、手を出そうとか考えていませんよ」
途中から変わるネネの不審な視線にコンスタンスは慌てて注釈をした。
「お祖母様の縁戚だと思って……話しているうちに魅了をかけられそうになり、すんでのところで踏みとどまれました。ただ、このまま泳がせた方がいいと彼女の手に乗った演技をしました」
魅了にかけられてマルヴィナの虜になるふりをしつづけた。
「マーガレットにも、カレンにも話している内容です。二人は私の協力を引き受けてくださいました」
「ラニテル公爵家の為に仕方なくです。実際、夫の浮気の噂を聞いて気分はよくありませんでした」
先程のマーガレットの複雑な表情の理由を理解する。
マーガレットはネネに笑いかけた。
「大奥様が怒ってくださり、胸がすっとしました」
これで、浮気の真相が明るみになった。
「ちなみにマルヴィナがいた修道院には洗脳装置があり、同時に押収しました」
コンスタンスは淡々と報告して、ネネの顔は次第に赤くなる。
「では、何? 私は、はやとちりして居残っていたということ?」
今までの問題はとっくに解決済み。
ネネが動かなくてもコンスタンスは自分で何とかできるようになっていた。




