025 【6日目】
ネリーネイオミが亡くなって6日目。
ネネが死神の指輪を借りてから6日が経過した。
明日にはネリーネイオミの葬儀が執り行われる。
使用人たちが明日訪れる訪問客のことで準備で大忙しであった。
掃除が終われば、他の場所への手伝いで案内される。
ネネはマーガレットのアフタヌーンティー係の為に、比較的動きやすい場所へ配属となった。
「奥様に言われて、旦那様にお茶を届けに行ってまいります」
ネネはそれとなく理由を言ってティーセットを公爵の執務室へと運んだ。
誰も彼女の行動を気に留めない。
(コンスタンス、待っていなさい)
ティーセットを運ぶ手が無意識に震えた。
これから彼女は殴り込みへ行くのだ。
◆◆◆
ノックをして許可が出て、ネネは執務室へと入った。
「失礼致します。お茶を持ってきました」
「? お茶を頼んだ覚えはないけど」
机で書類仕事をしていたコンスタンスは首を傾げた。
仕事用の眼鏡を外して、ネネの姿を見た。マーガレットのお気に入りのメイドだとすぐに理解したようだ。
「マーガレットに言われたのか?」
「はい」
ネネは迷わずに答えた。
「では、マーガレットお気に入りのお茶を飲ませてもらおうか」
特に疑問に思わずコンスタンスはネネが近づくのを許した。
ティーセットを彼の横に置いて、ネネは大きく息を吸って吐いた。
カッと目を見開いて、拳を握りしめた。
「コンスタンス! 覚悟!!」
ネネの拳が振り上げられて、コンスタンスの方へと向かう。
パシ
コンスタンスはネネの拳をあっさりと受け止めた。
「……」
それもそうである。
コンスタンスは20代の高身長の、成人男性である。
そして公爵家当主として武芸の鍛錬にも励んでいた。
片や、ネネは十代半ばの少女の姿である。
全盛期といっても、当時のネネは成人男性に敵うはずもない。
「一体、何のつもりか……」
コンスタンスはいきなりのことに動揺していた。それでも、公爵家当主として冷静に対処しようとしていた。
「覚悟!」
ネネは一瞬で思い至って、膝蹴りをお見舞いした。
「いた……」
突然の脇腹への攻撃にコンスタンスは思わず声をあげた。
「コンスタンス! お前という子は……確かに私は迷惑をかけてもいいと言ったわ。でも、それはマーガレットを悲しませていいという訳ではないの!」
ネネはまくしたててコンスタンスに叫んだ。
強い瞳で睨みつけると、コンスタンスは「あ」と驚いた声をあげた。
「ちょ、ちょっと待ってください」
「問答無用よ。いくら真実の愛に目覚めたからといっても順序があるわ。マーガレットに誠意を、けじめを見せてからにしなさい!」
なおも叫び続けるネネの声に周りは何事かと部屋の中を覗く。
「な、何をしているの。ネネ!」
わらわらと集まった使用人の中にはアンネもいて、悲鳴があがる。
騒ぎを聞きつけたマーガレットとカレンも現れる。
「……ここはいいわ。カレン以外立ち去りなさい」
マーガレットはしばらく沈黙した後、集まった使用人たちに命じた。
「で、ですが奥様。旦那様がメイドに襲われて……」
「まさか、ネネは敵国のスパイだったの!?」
使用人たちの動揺にマーガレットは両手を合わせて大きな音を立てた。
「大丈夫よ。ネネは……私とカレンでなんとかするからお前たちは去りなさい」
有無を言わさずに命じられて、使用人たちは持ち場へと戻っていった。
部屋に残ったマーガレットはため息をついて、カレンに目配せをした。
カレンはネネを抱えてコンスタンスから引き離そうとするが、ネネはめげずにコンスタンスの髪を引っ張る。
「やめて、髪を引っ張らないで。痛い! お祖母様」
思わず叫んだコンスタンスの声に、マーガレットとカレンは大きく息を吐き出した。
「あーー……」
「言っちゃった」
呆れ果てた言葉に、ようやくネネは髪を放した。
「ばれちゃった。とにかくコンスタンス。マーガレットを泣かせたら許さないわよ」
正体がバレたことを受け入れて、ネネはその場で魂の存在になるのを待った。
「あれ……」
しばらくしてもネネの体は変わらず実体化されたままだった。
コンスタンス、マーガレット、カレンはじっとネネの様子をみる。
「ど、どうして……正体がバレたのに体が消えない?」
一体自分の身に何があったのかとネネは首を傾げた。
「サービスです」
現れたのは長い赤髪に、糸目の死神であった。
「どうせ後1日ですし、このまま消えても色々と悶々とした状態で冥府に来られて文句を言われてはたまりません」
死神はため息をついた。
「だから、家族で話す時間は私の権限で残しておいて差し上げます」
「いいの?」
「一緒に迎えに来た彼もうるさそうですし」
ぼそっと呟き、死神は手を翳した。
後ろからにゅっと現れたのは見覚えのある男であった。
彼は満面の笑みでネネを見つめていた。
「迎えにきたよ。ネネ」
彼は、アレクサンダー・ラニテル。先代公爵で、ネネの亡き夫であった。
「ど、どうしてあなたがここに」
「ネネを迎えに行くのはいつだって私の役目だからね……冥府で働いてポイントを稼いで、死神との同行を許可してもらったのだよ」
(そんなこと許されるの?)
ネネは死神の方をみると、死神は深くため息をついた。
「冥府で起きた厄介ごとを解決した功績で、冥王が褒美を聞いたらこんなことに……実は死神の指輪を貸した時点でいましたよ」
ネネは驚いた様子でアレクサンダーを見た。
「え、全然気づかなかった」
「ネネを驚かせようと隠れていたんだよ。そしたらネネがここに留まるというから、それじゃあネネの頑張りを見守ろうと思って……ずっと側にいたよ」
その言葉にネネは顔を真っ赤にした。
「それならそれで言ってくれればよかったのに」
「時間は限られていますので、早く家族との会話を済ませてください。旦那さんとは冥府の道すがらできるでしょう?」
死神は呆れたように二人の会話を遮った。
それでは、生きた人3名、死者2名の会話が繰り広げられる。




