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第7話 交渉

「絶対嫌ですよ。


それとこれとは別の話ですよね。」


理美は、少し強い口調で言った。


「一つ、お聞きしてもいいですか。」


「はい。」


「JINさんは、一年間ずっと私の配信を見てきましたよね。」


「はい。」


「私が、今の生活から逃げ出したい人間だと思いましたか。」


JINは黙って聞いていた。


理美は続ける。


「私は配信で、家族の愚痴も言います。


ムカついた話もします。


嫌だった出来事も話します。


でも、それは今の生活が嫌だからじゃありません。


その出来事を面白く受け止めて、みんなと笑い合いたいだけなんです。


私は今の生活に満足しています。


一年間ずっと私の配信を聞いてくださっていたのに、そのことも分かりませんでしたか。」


JINは静かに答えた。


「十分理解しています。」


「……でしたら。」


「ですが、私は毎週土曜日を、本当に楽しみにしていました。


ソフィーさんの配信をリアルタイムで聞き、皆さんとコメントをしながら笑い合う時間が、本当に幸せでした。


理美さんの望みは、すべて叶えます。


ですから、どうか私の世界へ来ていただけませんか。」


やはり神である。


理美の気持ちは十分理解していると言いながら、それでも自分のわがままを貫こうとする。


「私、本当に今の生活に満足してるんです。


それなのに、日本で築いてきた生活を全部捨てて、地球ですらない異世界へ行けって言うんですか。


家族はどうなるんですか。


友達はどうなるんですか。


配信を楽しみにしてくれているリスナーさんたちはどうなるんですか。


私が今まで築いてきた人生を、全部なくすつもりなんですか。」


JINは少し考えたあと、静かに口を開いた。


「でしたら、分身をお作りします。」


「……分身?」


「地球では、大きな力は使えません。


ですが、自分の世界なら話は別です。


私は創造の神です。


理美さんのお望みの姿に、身体を作り変えることもできます。


例えば、いつもラジオ配信で使われている画像の、あの可愛らしい女の子の姿にもできます。」


理美の表情がさらに険しくなった。


「……どういう意味ですか。


私が、若くて可愛い女の子になりたい人間だと思っていたんですか。


そんなものが欲しい人間だと思っていたんですか。」


理美は、バカにされたような気がした。


神様が作った綺麗な顔を褒められても、理美にとっては何の意味もない。


理美が認めてもらいたいのは、自分の考え方。


話。


歌。


モノマネ。


努力して身につけてきた、中身の理美だからである。


理美は、この話を終わらせようと口を開きかけた。


その時だった。


ふと、


「もし若かったら。」


そんなことを、時々考えていた自分を思い出した。


理美は今、ドラッグストアで買える化粧品だけで、どこまで綺麗になれるのかを実験するように楽しんでいる。


その結果、肌診断アプリでは三十五歳肌と診断されるまでになった。


美容を本格的に始めたのは五十歳を過ぎてからである。


もし二十二歳から、今の知識で美容を続けていたら。


どんな五十三歳になっていただろう。


歌もそうだ。


昭和の曲なら、今でもすぐに覚えられる。


しかし、最近のボカロ系の速い曲になると、覚えるまでに二週間以上かかることもある。


もし若かったら。


もっと早く覚えられたかもしれない。


もっと柔軟な発想ができたかもしれない。


今より頭の回転も速く、思いついたことを次々と言葉にできたかもしれない。


配信でも、もっとたくさんの人を楽しませられる人間になれたかもしれない。


理美は、怠け者であると自分では言っている。


だが、自分磨きや、自分の能力を伸ばすための努力だけは惜しまない。


さすが、第二次ベビーブームの受験戦争を生き抜いた理美である。


何をするにも競争の時代だった。


努力しなければ前へ進めない。


努力は、理美にとって基本装備である。


若い頃の自分でもう一度人生を歩むことには、少し興味が湧いた。


もっとも、中身は五十三歳。


もう痛い思いはしたくない。


病気にもなりたくない。


我慢もしたくない。


理美は静かにJINを見た。


「私の条件を全部満たしていただけるなら……。


考えてみてもいいかもしれません。」

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― 新着の感想 ―
あら?笑笑笑笑 話が変な方向に笑笑笑笑笑笑笑笑笑笑笑笑笑笑笑笑 さぁ、ソフィーはJinの甘い誘いに乗らずに今の生活に戻れるのか?果たして?果たして?果たして~~~~~~~~~~~~~~~~?
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