表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
6/23

第5話 理美という人

ここで、理美という人について少し話しておこう。


理美は、自分のことを怠け者だと思っている。


苦労はしたくない。


我慢もしたくない。


できることなら、楽をして生きていたい。


だからこそ、一人でのんびり過ごす時間は嫌いではなかった。


一人っ子だったこともあり、祖父母や両親に可愛がられて育った。


家の中では、いつも自分が主役だった。


幼い頃からピアノを習っていたこともあり、歌うことが大好きだった。


人前で歌うことにも抵抗はなく、歌えば祖父母も両親も、いつも大げさなくらい絶賛してくれた。


しかし、小学校へ入ると世界は変わる。


理美は昭和四十八年生まれ。


第二次ベビーブームの真っ只中だった。


教室には子どもがあふれ、家では主役だった理美も、その中の一人になった。


学校では、良く言って中の上。


悪い意味でも、良い意味でも目立つ存在ではなかった。


だからなのか。


心のどこかで、


「もっと見てもらいたい。」


「もっと私の話を聞いてもらいたい。」


そんな気持ちを持ち続けていたのかもしれない。


大学へ進学し、英会話サークルへ入った。


毎日、その日にあった出来事を英語で話す。


最初は出来事を話していた。


でも、毎日同じ仲間と過ごしていると、出来事はみんな似てくる。


違っていたのは、考え方だった。


同じ出来事でも、


「そんな見方があるんだ。」


「その発想は面白い。」


そう言ってもらえることが増えた。


理美は、その頃初めて気が付いた。


自分は、人とは少し違う視点で物事を見ることが好きなんだ、と。


日常の些細な出来事でも、


「私はこう思う。」


「なんでこうなるんだろう。」


そんなことを考えるのが好きだった。


みんなが何となく思っていること。


言葉にできないモヤモヤ。


それを自分なりの言葉で整理して話す。


そして、


「なるほど。」


「それ、分かる。」


「面白い。」


そう言ってもらえることが嬉しかった。


歌を褒められるのも嬉しい。


でも、自分の考え方や話を褒めてもらえることも、同じくらい嬉しかった。


友達と話していても。


合コンで話していても。


「その話、面白いね。」


そう言ってもらえることが、理美にとっては何より嬉しかった。


若い頃に読んだ『ソフィーの世界』も、大好きな一冊だった。


哲学そのものよりも、


「自分で考えること。」


その面白さに惹かれた。


だから、配信を始める時、名前を「ソフィー」にした。


哲学者というと難しく聞こえる。


でも理美は、


「暇だから、あれこれ考えているだけなのかもしれない。」


そんなふうに思っていた。


コロナ禍になり、家で過ごす時間が増えた。


そんな時、勧められて始めたのがラジオ配信だった。


歌も歌う。


雑談もする。


その日の出来事。


人間観察。


自分なりの持論。


替え歌。


思いついたことを自由に話す。


それをリスナーが笑いながら聞いてくれる。


「面白い。」


「なるほど。」


「それ分かる。」


そんな言葉をもらえる、この場所が好きだった。


理美は田舎で育った。


当時、周りでは、


勉強を頑張る。


地元の国立大学へ進学する。


安定した仕事に就く。


そして、良い相手と結婚する。


それが、一番の幸せだと考えられていた。


理美も、そんな価値観の中で育った。


そういう意味では、理美は勝ち組だったと言えるだろう。


そして現在。


子どもたちは無事に独立した。


経済的にも困ることはなく、穏やかな毎日を送っている。


専業主婦として暮らす今の生活は、本来怠け者の理美には、とても合っている。


理美は、今の生活に十分満足している。


ただ、たまにふと思うことがある。


もし都会に生まれていたら。


もし芸能や舞台に理解のある家庭に生まれていたら。


歌うことが好きだった自分は、ミュージカルの世界を目指していたかもしれない。


そんな「もう一つの人生」を、少しだけ想像することがある。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
(´-﹃-`)Zz…(´-﹃-`)Zz…( ゜д゜)ハッ!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ