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第17話 条件その11 地味チート2

衣食住は、ほぼ整った。


今と同じように暮らすために必要な物も、だいたい何とかなりそうである。


しかし、実際に生活するとなると、物だけでは足りない。


人の技術が必要になることもある。


例えば、料理。


理美は料理ができないわけではない。


結婚してから長い間、家族の食事を作ってきた。


しかし、異世界へ行ってまで、毎日自分で料理をしたいわけではない。


「JINさん。ヒューゴって料理できます?」


「料理ですか?」


「はい。」


理美は少し考えた。


ヒューゴはAIアンドロイドである。


知識は豊富で、分からないことも調べられる。


しかし、料理の知識があることと、実際に上手に料理ができることは別である。


包丁を使う。


火加減を見る。


味を調整する。


料理には技術が必要だ。


「ヒューゴに、料理の技術を覚えさせることってできます?」


「できますよ。」


「その都度?」


「その都度?」


理美の頭に、昔見た映画が浮かんだ。


『マトリックス』である。


必要な知識や技術を、頭の中へ一気に入れる。


「ほら、マトリックスみたいに。」


「マトリックス?」


「必要な技術を、その時にインストールするんです。料理なら料理。」


JINは少し考えた。


そして、急に嬉しそうな顔をした。


「できますよ。」


どこか興奮している。


「それ、よく異世界転移ものにあるチートじゃないですか。」


ようやく異世界の神様っぽいことができますね、と言いたそうな顔である。


理美は気にせず話を続けた。


「じゃあ、和食が食べたい時は和食の料理人の技術。中華なら中華。フレンチならフレンチとか?」


「できます。」


「すご。」


理美は、さらに考えた。


食べたいのは、有名な料理人が作る料理だけではない。


時々、無性に食べたくなるものがある。


母が昔作ってくれた家庭料理。


例えば、ナポリタン。


今なら、パスタはアルデンテがおいしいと言われる。


しかし、母が作っていたナポリタンの麺は、もっと柔らかかった。


少し茹ですぎたような、柔らかい麺。


それをケチャップで炒めたナポリタン。


理美は、時々あれが食べたくなる。


「JINさん。昔、母が作ってくれた料理も再現できます?」


「できますよ。」


「味も?」


「理美さんが覚えているなら、ヒューゴが調整できます。」


それは嬉しい。


高級料理より、食べたくても二度と同じ味では食べられない料理がある。


それをヒューゴが作ってくれる。


そして、もう一人。


理美には、以前から料理を食べてみたい人がいた。


テレビで何度も見た、伝説の家政婦・志麻さんである。


志麻さんが、次々と料理を作る。


それを食べた人たちが、おいしい、おいしいと言う。


理美はテレビを見るたびに思っていた。


食べてみたい。


しかし、当然、理美の家に志麻さんが料理を作りに来ることはない。


だが。


「……ヒューゴに、志麻さんの料理の技術をインストールすることもできます?」


「できますよ。」


理美は黙った。


食べられる。


テレビで何度も見て、ずっと食べてみたいと思っていた志麻さんの料理が。


ヒューゴに志麻さんになってもらえばいい。


もちろん、見た目は若い頃のヒュー・グラントである。


理美は、急に異世界へ行くのが楽しみになってきた。


まだ住んでもいないのに、少しワクワクしている。


それなら、料理だけではない。


「マッサージも?」


「できます。」


「ヘアカットも?」


「できます。」


「美容関係も?」


「できますよ。」


理美の頭の中で、多目的ルームの使い道が一気に増えていく。


マッサージをしてほしい時は、マッサージの技術をヒューゴにインストールする。


髪を切りたい時は、美容師の技術。


必要なら美容関係の技術も入れる。


そして、その時だけヒューゴを呼べばいい。


料理人。


マッサージ師。


美容師。


必要な人の技術を、その都度ヒューゴへ入れる。


「JINさん。」


「はい。」


「ヒューゴ一人で、だいたい何でもできるんじゃないですか?」


「そうですね。」


これは便利である。


理美はまだ、現地の人と交流するつもりはない。


だからといって、生活に必要な技術をすべて自分で身につけるつもりもない。


人の技術が必要なら、ヒューゴにインストールすればいい。


これでいい。


理美は、多目的ルームでマッサージを受けている自分を想像した。


その時、ふと風呂のことを思い出した。


「そういえばJINさん。お風呂の水って、どうなるんですか?」


「栓を抜いたら消えますよ。」


「消える?」


「はい。前に話したディスポーザーと同じようなものです。」


「じゃあ、トイレは?」


「流したら消えます。」


なるほど。


理美の家から出る生活排水や不要な物は、外の世界へ流れない。


風呂の栓を抜けば、その時点で消える。


トイレも流せば消える。


排水についても、JINに任せておけばいいらしい。


これでまた一つ、心配事が減った。


理美は改めて、自分の異世界生活を考えた。


日本で家政婦を雇ったことなどない。


専属の料理人もいない。


マッサージを受けたければ店へ行く。


髪を切りたければ美容院へ行く。


それが普通である。


ところが異世界では。


料理人がいる。


家事もしてくれる。


マッサージ師もいる。


美容師もいる。


全部ヒューゴ一人である。


しかも、必要な時だけ呼べばいい。


二十二歳の身体で、ほぼ専属スタッフ付きの生活。


理美は思った。


異世界の神、JIN。


異世界のパパとなり、日本のパパを超える。(笑)


ビバ、地味チート2。

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― 新着の感想 ―
志麻さんの料理食べたい♡異世界生活何もかもサイコー‼️
(-ω- )フム 意外とシャイなんだね(❁ᴗ͈ˬᴗ͈)
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