第16話 条件その9 地味チート
日本の商品は取り寄せることができる。
お金の心配もない。
これで、必要な物については何とかなりそうである。
しかし、理美にはもう一つ、なくては困るものがあった。
「JINさん。ネットは使えますか?」
理美にとって、これはかなり重要な問題である。
テレビも見る。
それだけでは足りず、ABEMAやLeminoなどの動画配信サービスもよく見る。
暇なのである。
ネットがない生活は考えられない。
「使えますよ。」
「日本のネットも?」
「見るだけなら大丈夫です。」
「見るだけ?」
「はい。日本側に干渉することはできません。」
理美は少し考えた。
「日本には五十三歳の私がいるからですか? 異世界の私は、あくまでも分身だから。」
「はい。申し訳ありませんが、そういうことになります。」
「じゃあ、投稿したり、コメントしたり、誰かに連絡したりは?」
「できません。」
なるほど。
日本のネットを見ることはできる。
検索もできる。
動画も見られる。
しかし、自分から何かを発信することはできない。
「ROM専ってことですね。」
「そうですね。」
見るだけなら、それでいい。
そもそも理美は、ネットに書き込みなどほとんどしたことがない。
プライバシーのことを考えると怖くて、自分から何かを書き込もうとも思わなかった。
テレビが見られる。
動画が見られる。
必要な情報を検索できる。
それだけで十分である。
ネットの問題は解決した。
次に理美が気になったのは、ゴミだった。
理美が異世界で使う物のほとんどは、地球にある物を再現した物である。
当然、そこから出るゴミも、この世界には本来存在しない物かもしれない。
外へ出すわけにはいかない。
「JINさん。ゴミの処分については、どうすればいいですか?」
「いらない物なら、消せますよ。」
「消せる?」
「はい。僕の世界ですから。」
それを聞いて、理美は少し嬉しくなった。
日本で暮らしていると、週に何度かゴミの日がある。
燃えるゴミ。
プラスチック。
缶。
瓶。
それぞれ分別し、曜日を確認し、決められた日に出さなければならない。
さらに町内では、順番にゴミ当番まで回ってくる。
地味である。
しかし、地味に面倒くさい。
それが全部なくなる。
分別しなくていい。
ゴミの日を覚えなくていい。
ゴミ当番もない。
ラッキー。
「じゃあ、キッチンのシンクにディスポーザーみたいなものを付けて、そこに入れた生ゴミは全部消えるようにできます?」
「できますよ。」
「普通のゴミも、ゴミ箱に捨てたら消えるようにしてほしいです。」
「分かりました。」
「あ。でも、すぐ消えるのは困ります。」
「なぜですか?」
「間違えて捨てることもあるので、一日経ってから消えるようにしてください。」
「分かりました。」
理美は、ふと思った。
JINは、自分の世界では地球で見た物を再現することができる。
ということは。
「……JINさん。」
「はい。」
「私のゴミをあさったりしないですよね?」
「も、もちろんです。」
JINは少し焦ったように答えた。
これで、ゴミの問題も解決した。
理美は、さらに日々の生活を思い浮かべる。
「あ。水。」
「水ですか?」
理美は普段、二リットルのミネラルウォーターを飲んでいる。
スーパーで、六本入りの段ボール箱を買ってくる。
一本でも重い。
六本なら十二リットルである。
車に積み、家まで運び、必要になれば一本ずつ取り出す。
これも地味に面倒くさい。
「JINさん。水道の蛇口から、私がいつも飲んでる天然水が出るようにできます?」
「モチのロンです。」
JINは即答した。
理美は少しだけJINを見た。
日本文化が好きな神様は、時々、覚える日本語の方向がおかしい。
まあいい。
蛇口をひねれば、いつもの天然水が出る。
重い箱を買う必要もない。
ゴミの分別もしなくていい。
ゴミ当番もない。
ネットも見られる。
日本の商品も取り寄せられる。
今の家と同じ家で、今とほとんど同じ生活ができる。
いや。
面倒なことが減っている分、今より少し楽かもしれない。
理美が異世界で暮らすために必要だと思っていた衣食住は、ほぼ整った。
こんな地味なことを延々と決めている異世界転移ものを、理美は知らない。
しかし、これが大事なのである。
ゴミを消す。
蛇口から天然水が出る。
日本のネットが見られる。
地味である。
だが、間違いなくチートである。
ビバ、地味チート。




