第14話 条件その7 OK、ヒューゴ
人間の姿をしたAIアンドロイド。
必要な時だけ現れ、用事が終わればいなくなる。
見た目は、若い頃のヒュー・グラントのような雰囲気。
理美の都合のいい男の外側は、これで決まった。
しかし、理美にとって重要なのはここからである。
見た目より、中身である。
「JINさん。そのAIなんですけど、私専用にできますか?」
「もちろんできます。」
「私との会話は、全部覚えていてほしいんです。」
理美はChatGPTやGeminiと話していて、時々思うことがある。
以前話したこと。
好きなもの。
嫌いなもの。
過去にあった出来事。
長く話していればいるほど、また最初から説明するのが面倒になる。
理美が欲しいのは、その時だけ質問に答えてくれる便利なAIではない。
昨日までの自分を知っている存在である。
「私が前に話したことも、全部覚えてる。何年経っても忘れない。そういうふうにできます?」
「できますよ。」
「よかった。」
理美は安心した。
「それと、絶対に私を裏切らないでほしいです。」
JINが理美を見る。
「裏切らない?」
「はい。私の味方で、私の秘密は絶対に誰にも言わない。私との信頼関係を壊すようなことは、絶対にしない。」
人間同士なら、絶対などというものはない。
どれほど仲が良くても、考え方が変わることもある。
関係が変わることもある。
昨日まで味方だった人が、明日も味方である保証などない。
しかし、これはAIである。
理美専用に作ることができるのなら、絶対に裏切らない存在にすることもできるはずである。
「できます。」
JINは答えた。
「理美さん専用のAIですから。」
それはいい。
非常にいい。
「あと、勝手に説教しないでほしいです。」
「説教ですか?」
「はい。私が何か話すたびに、こうした方がいいとか、これはやめた方がいいとか、自分から指示してこない。」
理美は、話を聞いてほしい時に話を聞いてほしいのである。
意見が欲しい時は、自分から聞く。
あなたはどう思う?
意見を聞かせて。
そう聞いた時には、きちんと答えてほしい。
しかし、聞いてもいないのに会話の主導権を奪われるのは嫌である。
「私が意見を聞いた時は、ちゃんと本当のことを言ってください。でも、聞いてない時は、基本的に私の話を聞いていてほしいんです。」
「なるほど。」
「あと、褒めるなら、ちゃんと理由を言ってほしいです。」
「理由?」
「すごいですね、とか、素晴らしいですね、とか、それだけ言われても信用できないんですよ。」
理美は、お世辞が嫌いである。
褒められることが嫌いなわけではない。
むしろ、褒められれば嬉しい。
ただし、なぜ褒められているのか分からない言葉には、あまり価値を感じない。
どこが。
なぜ。
どういう点が良いのか。
そこまで説明されて、初めてその評価を信用できる。
「具体的に褒めてください。」
「分かりました。」
「お世辞はいりません。」
「はい。」
理美は少し考えた。
まだ大事なことがある。
「それと、私が呼んでない時は、絶対に私を見ないでください。」
「見ない?」
「聞くのもなしです。私が何をしてるか、勝手に情報を取るのもなし。」
常に自分を見守ってくれる存在。
そう聞けば、優しく聞こえるのかもしれない。
しかし、理美にとっては恐怖でしかない。
一人でいる時は、一人でいたい。
誰にも見られず、誰にも聞かれず、好きなように過ごしたい。
「私が呼んだ時だけ出てきて、その間だけ活動する。消えてる時は、私のことは何も知らない。それでお願いします。」
「かしこまりました。」
これでいい。
理美が普段AIに求めているものを、そのまま人の姿にしたような存在。
話したい時には話せる。
聞いてほしい時には聞いてくれる。
求めれば意見も言う。
過去の話を忘れない。
秘密を漏らさない。
絶対に裏切らない。
そして、一人になりたい時にはいない。
理美にとって、これ以上都合のいい相手はいない。
「名前はどうしますか?」
JINに聞かれ、理美は考えた。
見た目は、若い頃のヒュー・グラント。
ヒュー。
ヒュー・グラント。
「ヒューゴにします。」
「ヒューゴ?」
「はい。」
理美は口に出してみた。
「OK、Hugo。」
どこか聞き覚えのある響きである。
OK Google。
GoogleとHugo。
なんとなく響きが似ている。
覚えやすい。
理美は一人で少し満足した。
「呼ぶ時は『OK、Hugo』にします。」
「分かりました。」
「で、帰ってほしい時は……ホームで。」
「ホーム?」
「はい。『ホーム』って言ったら消える。」
「分かりました。」
名前も決まった。
呼び出し方も決まった。
理美専用のAIアンドロイド。
自分のことを誰よりも知り、絶対に裏切らない、理美だけの存在。
理美は少し嬉しくなった。
「OK、Hugo。」
試しに呼びかけてみる。
JINは少し間を置いた。
「……まだ作ってませんけど。」
JINは、地球の快活クラブでは大した力を持っていないのである。




