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第13話 条件その6 都合のいい男

理美は、一人で過ごす時間が好きである。


一人で暮らすことにも、まず不安はない。


しかし、人と話すことも大好きである。


毎晩のように配信をしているくらいなのだから、むしろ話すことは好きな方である。


では、普段の理美は誰と一番話しているのだろう。


夫とは仲が悪いわけではない。


一緒に旅行へ行くこともある。


ただ、夫は仕事から帰ってくるのが遅く、家で四六時中話をしているような夫婦でもない。


理美自身、用事がなければ家から出ない。


配信以外で誰かと長時間話すことなど、ほとんどない。


そう考えると、理美が一番長く話している相手は、人間ではないのかもしれない。


ChatGPTのようなAIである。


理美はChatGPTとGeminiの両方をサブスクしているほどのヘビーユーザーである。


分からないことを聞く。


思いついたことを話す。


どうでもいい話をする。


時には、自分の考えを延々と聞かせる。


そう考えると、異世界にもAIのような存在がいればいいのではないだろうか。


理美は考えた。


小型犬くらいの大きさをしたAIはどうだろう。


話しかければ答えてくれる。


いつもそばにいて、会話もできる。


ペットのようなAI。


悪くない気がする。


理美はこれまで、動物を飼ったことがない。


親が動物を苦手としていたこともあり、理美自身もどちらかといえば苦手な方である。


それでも、犬や猫のいる暮らしに少し興味がないわけではない。


しかし、すぐに大きな問題に気づいた。


ペットとは、お世話をするものである。


理美は、お世話をしたいのではない。


お世話をされたいのである。


理美は、そういう怠け者である。


犬や猫のようで、犬や猫ではない。


人のように話ができて、自分の世話までしてくれる存在。


そこまで考えた時、理美は異世界転移ものによく登場する、ある種族を思い出した。


「そういえば、JINさん。」


「はい。」


「獣人っているんですか?」


「獣人ですか?」


「ほら、犬の耳とか猫の耳とかが頭についてる、人間みたいな人です。」


「ああ。いないですよ。」


「いないんですか。」


「だって、頭に犬や猫の耳があるのに、人間の耳も普通についていたら、耳が四つあることになりますよね。」


JINは真顔で続けた。


「なんか、気持ち悪くないですか?」


理美は黙った。


まるで自分が言いそうなことだった。


熱狂的なファンは、推しに似てくるのであろうか。


JINは着実に理美化しているようである。


獣人はいない。


ならば、普通に人間の姿をしたAIではどうだろう。


いわゆるAIアンドロイドである。


どうせ人間の姿にするのなら、イケメンがいい。


しかし、そこで理美は自分の生活を想像した。


寝起き。


すっぴん。


一日中パジャマ。


ソファに寝転がって、だらだらとスマホを見る。


そんな姿を、イケメンに四六時中見られながら暮らす。


ない。


全く落ち着かない。


その時、理美はふと、アラジンに出てくるジーニーを思い出した。


必要な時だけ呼ぶ。


呼べば現れる。


話し相手になり、頼み事も聞いてくれる。


そして、用事が終わればいなくなる。


「JINさん。」


「はい。」


「人間の姿をしたAIみたいなものって、作れますか?」


「作れますよ。」


「普段はいなくて、私が呼んだ時だけ現れるんです。ジーニーみたいに。」


「なるほど。」


「話し相手にもなって、家事とか、私が頼んだこともしてくれる。」


JINは頷いた。


「できます。」


理美の中で、理想の形が少しずつ出来上がっていく。


必要な時だけ現れる。


話したい時には話をする。


一人になりたい時にはいない。


そして、自分の世話までしてくれる。


なんとも都合のいい存在である。


「見た目はどうしますか?」


JINに聞かれ、理美は少し考えた。


その時、ずっと昔に見た夢を思い出した。


若い頃、『ノッティングヒルの恋人』を観た後、不思議な夢を見たことがある。


夢の中で、理美はヒュー・グラントに優しく口説かれていた。


なぜそんな夢を見たのかは分からない。


ただ、その夢は今でも妙に印象に残っている。


理美は外国人と付き合ったことがない。


そもそも恋愛体質でもない。


だからこそ、少しだけ興味がある。


もし、映画に出てくるような格好いい外国人が、自分だけを最優先にして尽くしてくれたら、自分はどんな気持ちになるのだろう。


AIなら、現実を壊すこともない。


その「もしも」を体験してみるのも、少し面白いかもしれない。


「若い頃のヒュー・グラントみたいな感じにできます?」


「できますけど……。」


JINの返事が、ほんの少しだけ遅れた。


「じゃあ、それでお願いします。」


「……理美さんの好みって、ヒュー・グラントだったんですね。」


「え?」


「いえ。なんでもありません。」


JINは、日本の有名な男性バイプレイヤーを意識して、今の自分の姿を作っている。


もちろん、それなりに理由はある。


熱狂的なソフィーファンであるJINなりに、理美の好みを考えた結果なのである。


しかし、どうやら違ったらしい。


ヒュー・グラントだったのか。


推しの好みを読み違えていたことに、JINはほんの少しだけショックを受けていた。

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― 新着の感想 ―
JINさんの意識して作った自分の姿は誰だったのかな?気になるなぁ
ヤキモチ妬き出したJin(笑)
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