第12話 条件その5 未知との未遭遇
暮らす家は決まった。
では、その家をどこに置くのか。
そして、異世界の人たちとどう関わっていくのか。
異世界転移ものの主人公から見れば、理美は臆病者に見えるかもしれない。
せっかく異世界へ来たのだから、街へ出て、人と出会い、未知の世界を冒険する。
それが普通なのかもしれない。
しかし、理美から見れば、そんな彼らは無謀な若者である。
理美は臆病なのではない。
慎重なのである。
同じ日本人同士でさえ、自分の常識が相手の常識ではないことなど、多々ある。
ましてや、ここは異世界である。
見知らぬ土地で、見知らぬ人と仲良くなる前に、考えなければならないことはたくさんあるのだ。
「昔から『衣食足りて礼節を知る』とか言うじゃないですか。」
「はい。」
「生活していくためには、衣、食、住。まず、この三つが全部揃わなければ、他のことなんて考えられないんですよ。」
理美は続けた。
「だから、現地の人との交流なんて、まだまだ先の話です。
今は、そんなことを考える段階じゃありません。
まずは私の衣食住を百パーセント完璧に整えること。
話は、そこからです。」
JINは理美の話を聞き、納得したように頷いた。
「でしたら、理美さんが望むまでは、現地の人から認識されないようにしましょうか。」
「そんなこともできるんですか?」
「できます。
理美さんも家も、こちらの世界の人には認識できないようにしておきます。」
理美は少し考えた。
これから先、異世界の人たちと関わらないと決めたわけではない。
興味がないわけでもない。
ただ、今はまだ、その時ではない。
「それでお願いします。」
「住む場所はどうしましょう。」
「私、そちらの世界のことを何も知らないので、場所はJINさんにお任せします。
その世界で一番便利で、一番安心して暮らせる場所がいいです。
できれば、静かに暮らせるところで。」
「お任せください。」
異世界の人たちと交流するかどうかは、生活が落ち着いてから考えればいい。
今はまだ、未知との遭遇をする時ではない。
理美が選んだのは、未知との未遭遇なのである。




