25.
行動に理由など要らなかった。
走り、跳び、落ちる。
何をされたのか。何をしたのか。理解が追いつく前に体が動く。
何を思っているのか。何をしようとしているのか。考える余地などあり得ない。
昔から、ずっと繰り返してきた事。変わる事のない、彼女の願い。
追うように、駆ける。
追い付くように、ただ踏み切る。
飛び降りなどという生易しい物ではなく、敢えて崖から下方向に、岩肌に目掛けて加速していく。
自由な落下では間に合わない。彼の体が叩き付けられるより先に回り込み、
全身で、『剣』を抱き留めた。
「──っ、の……!!」
重い。
想像より、ずっと重い。男性としては細身な筈なのに、空中で体が引っ張られそうになるほどに。
否。事実、押し負けていた。落下速度を緩める事には成功しているが、しかしそのまま浮遊するまでには至れない。
無理矢理軌道を歪め、少しでも墜落の衝撃を緩めるように、些細な砂浜へ角度を取り。
激突。
絶息。背中を叩き付け、肺から空気が全て抜ける。
『剣』が致命傷を追わないように庇いつつも、落下の衝撃で腕から体が放り投げられる。
命がけだった。彼と接触している間、自身の「結果」は何一つとして掴めないままだった。
呼吸を整える前に、吹き飛んだ彼を視界に収める。
動く。立ち上がろうとしていた。影色の剣は離さないまま。
大きく息を吸う。吐く。久しい感覚。安堵の感情。
尽くせる手を尽くして、全力で、彼の命を拾い上げた。
──何故?
「……何をやってるの、キミは!」
──何故?
「何で私を、試すような事をしたの!!」
──何故。
彼は『徽』の魔力を奪ったのか。彼女は彼を助けようとしたのか。
何故、『徽』は、そんな事を問うているのか。
無抵抗だった『剣』は、立ち上がり、
笑っていた。
「俺に聞くな! 俺にもわからん!!」
「は──」
「だが、俺はそうしたかった! 理由も理解も理屈も理論も全部が後回しだ! アンタの声を聞いて、動かずには居られなかった!」
「剣、それは」
「本心を誤魔化すのが下手くそなんだよ、アンタはなぁ!」
ばちり、と剣が吼える。
それは『剣』の想いを代弁するかのように。
「俺はいつだって、自分の感情を後回しにしてきた。その方が良いと信じていたからだ! より良くなれると、良い『結果』を目指せると確信していたからだ! だがアンタは違う、ただ諦めただけだろう!」
「────」
「答えろ、『徽』! それは本当にアンタの願いか! 魔法が憎くて悔やんで、失敗したって一言で孤独に逃げるのが、本当にアンタが求めていた事か! それはアンタの最善なのか!」
「世界のすべてをぶち壊して、本当にアンタは満足なのか!?」
正面から『剣』が吼える。
それは、違う選択肢を差し出すように。
「俺の命まで拾い上げたアンタが、大量殺人者になる覚悟だって? 笑わせんじゃねぇ──そんな顔でふざけた事言ってんな! アンタは昔から何一つ変わらず、少しでも命を繋ごうとしてきたんだろうが!」
「『剣』、それは」
「俺なら、できる」
「アンタの願いを、叶えてやれる」
剣が天を指す。
彼はそうして、押し黙った。
待っている。彼女の答えを。言い淀みながら、理由を探しながら、整理しながら。
聡明な彼女が答えを出すまで、もしかしたら、数分。
「私は、」
自分の総てを否定する言葉。
選択の総てを否定する選択。
その覚悟を固めた彼女は、大きく息を吸って。
「魔法なんて、大っ嫌いだ──!!」
──地表の総てを舐め取るように、影色が走る。
それは、誰一人として傷つける事はなく。その上で、世界の全てを変えてみせた。
それから。




