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24.

 特異な魔法に目覚めた時は、自分は天才なのだと確信したものだ。


 路地裏。狼にでも襲われたのか、腹を破かれた遺体を漁る。

 人間の体は保っており、服の収納は荒らされる前だ。携帯食料があれば、水筒でも隠していれば。使いにくいが、金目のものでもあれば、食いつなぐ手段にはなるだろう。

 物心ついた時にはこの生活だった。何を恨む気もない。彼にとっては当たり前の話で、当たり前の日常だ。

 ただ、生きる為に全力を費やす。それ以外の事は考えない。


 手段くらいは選ぶように努めていた。

 死体を漁る事に抵抗感は無かったが、だからといって死体を作る事にまで無感情というわけでもなかった。

 不要な殺人は犯さず、可能な限り静かに生きる。雨が降った日には死の気配に怯えつつ、凍えた体が夜に目覚める度に些細な感動に浸っていた。

 他の連中のように、奪い、盗み、脅し、騙し。生きる以外の全ての尊厳をかなぐり捨てる気にはなれなかった。

 もしそうしなければならないのであれば、そこで死ねば良いだろう。ずっと、そう考えていた。

 心の何処かで、自分という存在が消え失せる事を望んでいた。


 人から奪うくらいなら。


 ある日の事だ。

 いつも通りの日常。死体漁り。首を落とされたそれから、可能な限り使えそうなものを拾い上げていく。

 まだ生暖かい血。今しがたの現場。人間の手によるものか、などと考える事はしなかったが。


 人影。


 ──似たような立場の人間であれば、一目散に逃げ出していた。今まではそうしていたから。

 同じ獲物を見つけ、奪い合いにならない道理は無い。ここでわざわざ体力や時間を使える程の余裕はない。

 だから、そこで立ち竦んでいたのは、過去の常識が通用しない相手だからであり。


 小綺麗なその男が屈んで、視線を合わせて。

 興味深そうに呟いた言葉は、未だ鮮明に覚えている。



 ──便利なものだ、と。






『剣』。彼は、そう名乗った。

 本当は名前があったのかもしれないが、少なくともその一単語で充分という程に、機能として研ぎ澄まされていた。

 執行者。そう呼ぶべきか。大きな罪を犯した人間を狩り尽くす、国が有する浄化機能。

 そんな彼についていく事を決めたのは、憧憬や羨望などではなく。

 そっちの方が生きていけそうだから。それ以上には、何も考えていなかったのだが。


 路地裏から拾われ、苦しく厳しくも死の気配から遠ざかった生活は、まさしく極楽と呼べるものだった。

『剣』の有する魔法は確かに継承され、自分の中に蓄積された。利用価値として使われるのであれば、相応の働きはする腹積もりはあった。

 彼の為に、などという殊勝な考えはなく。結果として、生き続けるために、ではあるのだが。


 だから。

 鍛錬の中。初めて見せた影色に、あそこまで恐怖されるとは、微塵も考えていなかった。


 使えるのなら使ってくれ、と懇願していた。

 真正面から『剣』が作った剣を叩き折った影色は、些細にも揺らぐ事はなく。

 ただ、『剣』の目を見ていた。今までずっと強気だった彼の目に、怯えがあった。

 誤認していたのだ。自身が魔力の痕跡を消失させられるものと思われていた。その程度のものではなかった。


 魔法を切り払う魔法。

 そんなものが、この世に存在して良いものか。

 そのような人の努力を踏み躙る冒涜が、許されてなるものか。


 ──それから、影色は秘匿された。







『剣』が寿命でこの世を去り、その名を継いで。

 役割相応に心を凍らせ、年相応に思考を巡らせ、その隙間で怯える彼の目を思い出す。

 当然と言えば、当然の話だ。これは努力も研鑽も覚悟も願望も、何も許容せず否定する、極めて悪質な魔法だった。

 こんな物をわざわざ好む人間など、この世の何処に居ようものか。


 墓まで持っていく秘密にしよう。

 誰も救えない力なら、無い物として扱おう。

 こんなもの、誰かの役に立てるなんて思えない。

 そうして、その魔法を、彼以外に知る者は居なくなった。



 だと言うのに。






 ──だって、キミが絡むと急にわからなくなるんだもん。

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