23.
行動に理由は見つからなかった。
ただ、四肢に力は漲っていた。
過去に例が無いほどの全身の高揚。この瞬間の為に自分の体があったのだと歓喜する衝動。
強く一歩を踏み込む。空間を越える。刹那、『徽』の背後に到達。
左手を、伸ばす。
「──!?」
彼女の反応は遅れていた。
魂を魔力に加工して疲弊していたのか、それとも精神的な摩耗か。どちらにせよ、『剣』の行動を許してしまった。
膨大な魔力の込められた、光の杖。それを『剣』は左手で強く握り締める。
本来なら実体など無いのであろうそれは、一瞬で影色に塗り潰され、彼の手に馴染むように形を変えていた。
「『剣』、何を──!!」
長大な剣。
ただ、それはまだ振るわれる事はなく。
勢いを殺さないまま、『剣』はさらに駆ける。崖は目前。速力は落ちない。このまま走ればどうなるか。
自明。
踏み切る。
「っ──!!」
恐怖が無いわけではない。押し殺すのに慣れただけだ。
空間を跳ぼうという発想も無かったわけではない。ただ、それは使えなくなっていただけだ。
左手に掴んだ、『徽』の魔力。それを染め上げた影色。
歪んだ魂を砕いてきた、冒涜の色。
彼女にも隠していた、四つ目の魔法。
視界が逆さまになる。空が足元に広がり、自由落下が始まった。
水飛沫を浴びた気がする。この短時間でそんなものがあり得るとは考えにくい。では、恐怖が走った事による錯覚か。
落ちる先は、飛沫の隙間から覗く岩肌。
理由のない行動の果てに見るのは。
走馬灯、とでも呼ぶものだろうか。




