15.
馬鹿な人間は居るものだ。
命知らず、というよりは。
過度な楽観、と言うべきで。
「ぎっ、ひ」
もう少し警戒されていれば、こんな事はできなかった。
もう少し安全に立ち回られていたら、この生存は望めなかった。
だから。
「ひひっ、ひ──ひ」
その骸の有様は、自業自得だ。
「ひっ、ひ……簡単、簡単。実に愉快。斯様に容易であるのなら、ここまで注意を払わずとも……」
路地裏。
腐臭。
黒い足跡。
幽鬼が如く歩く姿は、つまり。
「『剣』……と、言ったか。ひひっ。流石にそのような化物に目をつけられるのは避けねばならんが、何。愚か者に限れば、難など無い事がよくわかる……」
──路地裏にふらりと踏み込んだ、壮年の男性。
何を目的にしたのかはわからない。ただの興味本位で、肝試しのつもりだったのか。
物言わぬ骸となっている彼は、この怪物の餌食になった事に間違いはない。
首筋に噛み跡。流血。恐怖に剥かれた眼。
声も上げないまま、地に伏す姿。
「この調子で、繰り返せば──」
予定を立てようと試みる。
それの目的は、いつの間にか生存より高次のもの。
特定個人との対話に、すり替わっていた。
想像に夢中になる。計画に集中する。独り言が、僅かに漏れる。
こんな暗がりでなければ目立ったであろうその姿は、しかし暗がり故に誰に咎められるわけではない。
「──む」
思考を遮るのは、つまりまともな人間ではなく。
骸が、動き出していた。
「お──お?」
否。それは既にただの骸ではなく。
地を這い、伸び、捻じれ、歪み、人間としての形を放棄していく。
変形を続け、びたびたと辺りを叩き、少しずつ大きくなるそれは。
まるで、黒い植物のようで。
「ひ──ひひっ。魂だけを抜くならどうなるかと思えば、これはこれは──!」
伸びる。駆ける。貫く。砕く。奪う。飲み、啜り、食らう。
轟音。暴力。悲鳴。人間。魂。魂。魂を。魂が。魂こそを。
捕食。




