表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/29

14.

「…………」


 口を開く。

 声も出ないまま、口を閉ざす。


「…………、」


 口を開く。

 声は出せない。躊躇いが拭えない。


「……俺は、」


 やっと絞り出した言葉に、まだ意味は与えられない。

 もしかすると、数分はそうしていたのかもしれない。見つめる『しるし』と言い淀む『つるぎ』。時の流れが急激に緩やかになったような、ただ二人だけが呼吸する間隙。

 少しでも誤魔化そうと、紅茶の残りを口にする。冷めきっていたそれは、馴染みの無い渋さを主張してきた。


「三つ。誰にも真似させていない魔法を、併用している」

「ふむ?」


 ようやく、思考と意識がまとまった。

 左手の些細な震えは、悟られなかっただろうか。

 話すべき事を、選んで話す。

 ──それでいい。それだけで、いい。


「ひとつ。アンタも知ってるだろ──剣の錬成」


 実証の為に、彼は右手で空を切る。

 刹那、音もなく握られているのは、細身の長剣。

 ほんの僅かな時間だけ青色の光を纏ったそれは、すぐに金属質な鈍い輝きを返すようになった。呼吸と同じように、基礎的な動作として染み付いた、彼の代名詞。


「歴代の『剣』が、その役職と一緒に継承してきた魔法だね?」

「そうだな。武器の携帯をしなくて済むように、代々少しずつ研鑽されてきている。物理実体の制御は、全体からすれば高等技術だ──術式を知られても真似できる奴はそうそう居ない」


 ひょい、と錬成した剣を放り投げる。

 彼の手から外れたそれは、音もなく虚空に消えていた。

 手慣れてしまえば、投擲にも向くのだろう。白兵戦に特化している、戦う為の魔法。

 必要な暴力、である。


「ふたつ。魔力の観測」


 視線が交わる。

 ようやく、意志が伝わるように目が合った。

 彼の瞳には、いつの間にか見慣れない青色が差す。それが、言及されている魔法だろうか。


「俺達は魔力の知覚はできるが、そのイメージは概念的な物だろ?」

「匂いとか、輪郭とか。そのくらいだねぇ」

「ああ。俺の瞳は、それと比較して段違いに精度が高い」


 例えば、と。

 彼は数歩先の、積まれた本の山に目を向ける。


「直近に読んでいた本は、あのあたりだな」

「ひぇ、プライバシー」

「アンタが聞いてきたんだろ……。要は、時間経過も個人の特質も、俺の瞳なら大体特定が追い付いてくる。有り難いことに、暴漢の追跡なんかにゃ一役買ってるよ」


『徽』の感心した声。

 思えば、彼の行動はいつも迅速で迷いが無かった。その魔法があるのだとすれば、そして常にそんなものが見えているのだとすれば。少なくとも『徽』にとっては、違和感のある話ではない。


「みっつ。空間跳躍」


 は、と驚こうとした瞬間に。

 対面の『剣』の姿は消えており。


「……見ての通りだ。こんなものだろ」


 背後。

 ぎし、と椅子の背もたれ越しに体が重なる。

 もう目は合わせない。そんな言葉が聞こえてきそうな、彼の態度。


「話したくなかった?」

「話してどうなる、という程度の感想だよ。これらはアンタの『結果』を誤魔化せる物じゃないだろ?」

「そうだねぇ」


 ひょい、と『徽』は最後のマカロンをつまみ、振り返りもせず後ろに放り投げる。

 床に落ちる音は聞こえなかった。代わりに投げた先から、眼前の皿に菓子は返ってきた。

 どこまでも受け取る気はないらしい。


「──何か隠してるでしょ」


 諦めて、二人ぶんの菓子を全て平らげてから、彼女は少しだけ問い詰める事にした。

 肩を竦める気配。肯定も否定もなく、話す気も無いようだ。


「……私はそれらの魔法を、全て知っている。一人でぜんぶ持っているのは初めて聞いたけど、だからと言って『結果』に干渉できるとは思ってない」


 応えてくれないんだ、と。

 ほんの僅か。声に、失望の色が滲む。

『徽』のティーカップは、とっくに空だ。これ以上の会話を続ける理由を、遂に用意はできなかった。



「キミは、機能として生きる事を選ぶんだね──『剣』」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ