新米勇者に、私は告げる
目の前に座る新米勇者は、下げていた顔を勢いよく上げた。
「口説き方? お前なんてたかが魔法使いだろ。勇者がいなければ、日の目をみることだってできない無能のくせに。何を偉そうなことを言ってるんだ。立場を考えろ」
新米勇者の言葉に、まるで負け犬の遠吠えのようだと頭の片隅で思う。そして私はこの人のプライドを傷つけてしまったのだろうとも思う。
プライドを傷つけてしまったことに罪悪感はない。それに私はまだ言っていないことがある。これを私が言って、この人が理解できたのなら……きっといい勇者になることができる。
「さっきから聞いていると、あなたは何か勘違いしているように思う」
「はあ? 僕の何が勘違いだって言うんだ? たかが魔法使いの分際で偉そうに勇者に意見するなよ」
「それよ。その言い方、その考え方。あなたは勘違いしている。勇者と他の職業の人々の間に、上下はない。勇者だからって、他の職業の人々を下に見るのは間違ってる。たかが、とか。わざわざ、とか。そう言い方をする人と旅をしたいと思う人はいない」
「……何を偉そうに。所詮お前は勇者に捨てられた無能な魔法使いのくせに。この僕がその無能なお前を拾ってやると言ってるんだから黙ってついてこい」
ああ、伝わらないな……。このままだとこの人は、本当に一人になってしまう。
「極端な話をすると、今のあなたに誰も命をかけたいとは思わない。あなたを見捨てて助かるのなら迷わず……見捨てるでしょう。だって勇者は引き継がれるものだから。あなたが死んだら、もっといい勇者が生まれるかもしれない。だったら見捨ててしまおう。そういう思いに、考えになるわ。誰も、自ら進んで苦痛を選ぶことはないんだもの」
「……っ! 僕に意見するなああああ! たかが魔法使いが偉そうに! 僕は選ばれたんだ! この世界に! 誰よりも僕は偉い! 僕は勇者だ!」
机の上に乗っていた花瓶が、勢いよく床に叩きつけられる。そしてガラスの割れる音がする。
私の言葉に荒れる新米勇者から視線を外さない。
例え殴られようが、切られようが……私は言い切る。私はこの人に後悔してほしくないから。そして、死んでほしくないから。
何より私は、私が後悔したくないから――。
だからここで私が彼に伝えるんだ。
「聞いて。お願いだから」
私は新米勇者の両腕を優しく掴み、彼の揺れる灰色の瞳をまっすぐ見つめる。
「私はあなたに死んでほしくないから、言うの。まだ変われる。あなたという勇者は、まだ生まれたばかりだから。だから――考えて。あなたは、どんな勇者になりたい?」
「……」
私は、じっと彼の言葉を待つ。
「……優しくて、強くて」
「うん」
「困ってる人を助けられる、そんな……勇者になりたい」
「なれる。なれるよ。今なら、まだ」
ぼろぼろっと大粒の涙を零す新米勇者。私はその頬に触れる。そして溢れる涙を親指で拭う。
どうかこの新しい勇者に、良き出逢いがありますように――。




