どうやら私のイベントが発生したらしい
……さて、逃げたはいいがどうしたものか。
恐らくまだ家の中には先ほどの不審者がいるだろう。
「最悪だ。やっとゆっくりできると思ったのに……」
はあ、と重い溜息が出る。
私が故郷へ、しかも勇者にとんずらされているこのタイミングで私の家に不法侵入している男がいた。しかも私の名前を知っている。つまりあの男が私を仲間にするためのイベントが発生したらしいということ……。
これはどこへ逃げても、あの男は簡単に追いついてくるだろうな。だって私はあの男と一瞬だけだが顔を見合わせてしまった。それだけなのに恐らくイベントは始まっているだろう。そしてイベントを発生させた人間は対象者の位置を知ることができる。つまり現在あの男は、私の位置を知っている。最悪私の前に転移してくる可能性もある。それに勇者という名の主役限定装備『他人の家勝手に入ってアイテムゲット』で私の家は荒らされているだろう。最悪だ。
「はあ……。しかたない。さっさと終わらせよう」
足取りは重いが、どうにか家に戻ると男はにこにこと笑って私を出迎えた。
ねえ……ここ私の家なんだけど。何堂々と我が物顔でソファに座って寛いでるの。勇者だからって好き勝手していいわけじゃないんだよ。そこんとこわかってるのかな。
私がもの申そうと口を開きかけたとき――。
「何だか機嫌が悪いね、レイン」
「はっ……?」
意味がわからない。何で私は、この男に呼び捨てされているんだ。仲間でもない、数分前に勝手に人の家にいるような礼儀知らずの男に。この男が勇者だからか。だから私を呼び捨てにするのか。
気持ちがわるい。腹が立つ。いろいろな感情が湧いてくる。
「さ、早く行こう」
かたん、とティーカップを置き立ち上がる男。カップの中に入っているお茶は、私のお気に入りのものだ。
やはり家の中を調べられていたか。それは予想通りだ。だけど、何か勘違いしていないか。勇者は何をしても許されるとか、勇者はこの世界で選ばれた人間だけがなれる職業だからなれた自分は偉いだとか。だから勇者である自分の誘いを私が断るはずがないと、そういう風に思っているのだろうか。いや、そういう風に思っているのだろう。
……本当に気持ちが悪い。人の家で勝手にカップを使いお茶を飲み、寛いでいるのが。
ざわざわと、吐き気にも似た何かが込み上げてくる。
「レイン。どうしたんだい? そんなに眉間にしわを寄せて」
「あの、一ついいですか?」
「何だい?」
「あなたは勇者なの?」
「そうだよ。昨日なったばかりなんだ」
自信に満ち溢れた笑顔。この男はまだ新人。いや、勇者の卵と言ったところか。
この時期なら、なおさらレベルマックスの私をパーティーに加えたいだろう。だがしかし私はこの男のパーティーには入らない。なぜなら私には、本当に信頼できる勇者がいる。
……まあ、とんずらされましたけどね。いや、見つけるから。絶対見つけるから。それで見つけたら、勇者に大馬鹿野郎って言ってやるの。それで全部終わり。勇者がいなかった間のことは全部忘れて、ただそれだけ言って終わりにする。だからこの男とは行かない。
「その勇者様が何をしに来たの?」
「何をしに? もちろん君を迎えに来たんだよ」
笑顔が、言葉が……とても気持ち悪い。
今度は胃の辺りから、何かがこみ上げてくる。嫌だなあ、このイベント。早く終われ。 私は、全力で念じた。
「悪いけど、あなたとは別の勇者とパーティーを組んでいるの。諦めて帰って」
「ぷっ! あははははははっ!」
「何がおかしいの」
自分から出た声は、思ったよりも低くなった。大笑いをする勇者を見て、ぐっと眉間にしわが寄る。
「ふっ、わかってます? 新しい勇者が生まれるってことは、古い勇者が何らかの理由で死んだってことですよ」
「だからなに?」
「僕がここにいるってことは、レインがパーティーを組んでいた勇者が死んだってことなんだよ。ほら、さっさと準備をして行くよ」
「行かないけど」
「レイン。勇者の僕が、わざわざ君を誘ってあげてるんだ。断るなんて選択肢はないだろう」
「はあ。あのね、私の勇者は死なない。絶対に。私には彼が死なない確固たる自信がある。だってそれだけの信頼関係を築いてきたから。それから、わざわざ私を選んでくれなくていい。私をパーティーに入れたいなら口説き方の一つでも学んでから来て。わかった?」
一気に私の気持ちを言葉にする。私の言葉を聞いた新米勇者は、わなわなと身体を震わせている。
勇者。あなたがいないから、面倒なイベントが発生しまくってるのよ。本当に見つけたら容赦しないから。




