私と勇者のはじまりの町
リー・ゼレムから逃げるようにテレポーテーションした場所は、私が唯一マークしている町ウォンヘレム。
穏やかな気候と自然豊かなところが特徴の町だ。そしてここに住む人々は、あったかくてまっすぐ。だから間違ったことをしたら嫌われてでも言ってくれるし、良いことをしたらうんと褒めてくれる。私の大好きな人たちが住む、優しい町。
ここで私は生まれた。そして……勇者も。
「……」
本当は全てが終わったら帰ってこようと勇者と約束していたから、不本意な帰郷だ。
でも久しぶりに帰ってきたこの故郷が変わっていなくて安心する。
私が昔のことを思い出しながら自分の家に向かって歩いていると、懐かしい日々が私の前を風と共に通った。
そして――。
『レイン』
まだ幼さの残る勇者が、私に手を差し出して笑った。
ああ、あの日だ――。あの日、私は彼の手をとった。そして彼が、自分を捨て『勇者』になった日。
誰も知らない、私と彼だけの記憶。
「何で突然あんなこと言って姿消したのよ……」
あなたのせいで別にクリアしなくてもいいイベントをクリアしちゃったじゃない。そのせいで少し怖い目にあったんだから。それにクリアしたかった魔王討伐だってあなたがいなかったから、イベントが発生しなかった。全部全部、あなたが突然私の前から消えたせい。
勇者がいなくなってからの日々を思い出していくと……何だか腹が立ってきた。
あの、馬鹿勇者。絶対に何か隠してる。あれだけの覚悟をした彼が、あんな理由で勇者をやめるわけがない。何より私が怒っているのは、彼が私を信用してくれていないということだ。……私は、たった一人のあなたのパーティーなのに。
「少しくらい、信じて話してよ……馬鹿勇者!」
……はっ。いや待て。信用した結果が、これか。まさか。いや、でもそのまさかか。
頭を抱えて悩む。だが、私の頭は正常に働かない。駄目だ。疲れている。精神的にも、肉体的にも。うん。とりあえずゆっくり惰眠を貪りたい。
そう思った私は自宅に向かい再び歩き出す。数分歩くと見えてくる。白い壁に朱色の屋根をした一人で住むにはちょうどいい小柄な家。それが私の家だ。
私は鍵を開け、中に入るためドアノブを回した。
「ただいま」
「おかえり。魔法使いのレイン・ルーさん」
返ってくるはずのない返事がきて、私は思わず扉を閉めて鍵をかけた。そしてあてもなく走り出す。それはもう、全力で。




