私と、踊り子さん2
「……」
うーん。まだ着いてきてる。私はこの先にある町に寄るつもりはないから、今日野宿なんだけどな。よし、ここははっきりさせるべきだな。
私は立ち止まり、振り返る。
突然振り返った私に驚いたのか、彼女はきょとんとしていた。だがすぐに柔らかく微笑む。
私はそんな彼女をまっすぐ見つめて口を開く。
「この先に町があります」
「ええ、そうみたいね」
「賑やかでいろいろな物があるいい町ですよ」
「そうなのね。あなたは立ち寄るの?」
「私は、寄りません」
「そう。なら今日は野宿ね」
彼女は笑って、野宿という言葉を口にした。
あー、これはやっぱり隠しイベントを意図せずクリアしてしまったのかもしれない。だいたい隠しイベントなんて簡単に出てくるものじゃないし、クリアだって簡単じゃない。なのにクリアとか。私、勇者にとんずらされたのに。……いや、勇者にとんずらされたからなのか。だとしたら、辛い。何もこんなところで運が回ってこなくても。空気読めよ。空気の馬鹿野郎。いや、まあイベントクリアしても結局はその人の思いで決まるわけだから。私はあの踊り子さんに選ばれた、ということなんだろう。だがしかし今の私は仲間を求めていない。つまり踊り子さんと別れるという選択しかないのだ。
「私、あなたの役に立つわよ」
「はっ……?」
まるで私の心を読み、先手を打つような踊り子さんの言葉に驚きを隠せない。
「私はあなたの……あなただけの踊り子よ。ここで置いていかれたとしても、私は必ずあなたを見つける。そして、例え首だけになってもあなたの元に必ず行くわ」
踊り子さんの言葉に、冷や汗が背中を伝った。
え、ちょ、いや、はっ……。何言ってるの。この踊り子さん。何か怖いんだけど。え。
混乱する頭で、目の前にいる踊り子さんを見る。彼女は、別段変なことを言ったという顔ではなかった。
彼女は、優しく微笑んでいたのだ。
「私は、リー・ゼレム。職業は踊り子。よろしくね。レイン・ルー。私の愛しい人」
うっとりとした表情で私の名前を呼び、彼女は私を抱き締める。
「何で私の名前……」
「踊り子の前は、巫女だったの。そのときに視えたのよ。あなたが。だから知っているの。あ、でも今は無理よ。踊り子にジョブチェンジしちゃったから、巫女のときの力は使えないの。でもあなたが望むなら、巫女に戻ってもいいわ」
う、わああああああああ。この踊り子さん怖い。何なの。レイン・ルー大好きっ子ですか。いやいやいや、この人巫女時代に何を視たの。何を視て私にそんなにも拘るの。断る選択肢が勢いよく消されていくんだけど。
おう、私は意図せずどえらい隠しイベントをクリアしてしまったようだ……。とりあえず逃げよう。まだこの大陸で勇者を探したかったが仕方ない。だってこのイベント続行は何となく怖い。だから逃げてなかったことにしよう。そうしよう。
「リーさん、ありがとう」
「レインちゃん……!」
チャンスは恐らく一回。失敗は許されない。私はできるだけ優しくリー・ゼレムを私から放し、距離をとる。
そして――。
「ウォンヘレム」
「え? 今何か言った?」
「さよなら。リー・ゼレムさん」
私は彼女の言葉を聞かず、テレポーテーションする。
だが私が消える前に見た彼女は、変わらず微笑んでいた。
そして「とっても燃える」そう呟いた――。
ああ、本当に早く勇者を見つけなきゃ。




