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私と、踊り子さん

 あー、綺麗な青空だなー。そしてなんか私の後ろをずっとついてきてる、美女がいるなー。

 私は振り返り、深紅の髪と瞳を持ち溢れんばかりの色気を私に向ける美女を見る。

 彼女は花が咲いたように笑って、ひらひらと私に手を振った。そして私はそんな彼女に軽い会釈だけして前を向く。


「……はあ」


 なぜこうなった……。

 私は頭を抱えたい気持ちになったが、すんでのところで堪える。今は先に状況整理が先だ。

 こうなった原因はなんだった、私。


「……」


 美女に出会ったのは確か……数時間前のことだったはず。

 それで確か私が次の町に行くために、道を歩いていたら何だか声が聞こえてきて。あー、道のど真ん中を占領して何やってるんだ。そう思った記憶はある。それで……。


          ***


 右側は、鬱蒼と生い茂る森。左側は、見晴らしのいい草原。そしてその真ん中を歩く私。道を占領して何かやってる男三人。その間にいるのは、女性だろう。


「何なの。あなた達。何度も言うけど、私はあなた達とは行かないわ。早くどこかへ去ってちょうだい」

「いやいやいや何言ってんのはお前の方だから。俺が何者か知ってるか? 俺は、この世に五人しかいない勇者だぜ。その勇者の俺が誘ってやってるのに断るとかマジありえないから」


 私からは少し距離があるけど、はっきり聞こえてくる男女の会話。

 どうやら三人のうち一人の男は勇者らしい。あと二人の男は服装から見て魔法使いと武闘家といったところか。全然わからなかったわ。なんかあの勇者、勇者っぽくないんだよなあ。まあ、そう思うのだってただの勘だし。それに勇者も一人の人間だし、性格とか考えとかで違うよね。

 そう思うことで私は自分を納得させる。

 で、あれが勇者だとして、どうする。あの勇者一行が噂を知っていたら何を言われるか。私を勇者として勘違いしたまま、絡まれるのはごめんだな。


「私には決めた人がいるのよ。その人以外とはいかない」

「俺以上にいい男がいるってのか? いねぇだろ」


 げらげらと下品に笑う男達に囲まれている彼女は、格好からして恐らく踊り子だろう。もし彼女が踊り子なら、仲間にしたいのは頷ける。

 戦いの中で踊り子は戦況を有利にすることができる。攻撃は、ターン制。レベルによるが踊ってくれると、近隣もしくは遠くにいる行動が終了した味方を一度だけ動けるようにすることができる。その踊り子の数は、勇者ほどでは無いが少ない。だから仲間にしたいのは、わかる。私もレベルが低かったときに何度も踊り子さんに仲間になってほしかったから。

 まあ、私のところは勇者が必要ないって言って仲間の勧誘はしなかったんだけど。

 ……と、まあ私の話はいい。今は目の前で起こっている、あの勧誘の仕方だ。私的には許せない。腹の立つ勧誘の仕方。

 踊り子は戦闘向きの職業じゃないから腕っぷしは強くない。それをわかっていてのやり方だ。

 何もせずじっと見ていたが、さすがにこれ以上は見ているわけにはいかないな。

 私は静かに歩みを進め、男達に近づく。


「かっこ悪い勇者ですね。それにやり方が汚い。男三人で女性一人を囲むだなんて」

「はぁ!? 何だよお前!」

「私ですか? ただの一人旅をしている人間ですが」

「痛い目にあいたくなかったら、今すぐに消えるんだな。お嬢ちゃん」


  武闘家っぽい男の言葉に、他二人の男がニヤニヤと嫌な笑いを浮かべている。

 何とも腹の立つ笑い方だ。これが私の出会う二人目の勇者で、そしてその仲間たちか。

 そう思ったら、胃のあたりにどす黒い感情が現れる。

 これが、勇者……。

  いいや――違うでしょ。


「お前こそ何者だよ?」


  私から出た声は、どこから出したんだというくらいとても低かった。

 私の言葉に、男たちは青筋を浮かべ怒りを露わに私を見ている。


「なあ、お嬢ちゃん。口の利き方ってものを知ってるか?」

「いいか? 俺は勇者だ。そしてこいつらはその勇者の仲間だ。お前たちただの人間は、俺たちを崇め讃え尽くすのが役目なんだよ。わかってるか?」


 下卑た笑い方。私の中の誰かが言う。「こいつらは勇者ではない」と。


「それでは勇者様。一つお聞きしたいことがございます」

「何だよ」

「勇者の印はどこにあるのですか?」

「はあ? 何言ってんだ! テメェ、俺を疑ってんのか!?」


 男の言葉や反応に私は笑う。

 私の勘はあたったかな。だけどまだ安心はできない。嘘くさい勇者の可能性もある。ちゃんと確認しなければ。


「見せては頂けないのですか? この世界に選ばれた勇者様の体には、その印が刻み込まれている。本物の勇者様にないはずがありませんよね?」

「ああ!? ふざけてんのか! おら! そこまで俺を疑うなら見やがれ! これが勇者の印だ」


 怒鳴りながら上半身の服を捲り上げ、私に腹を見せてくる勇者らしい男。そこには炎を纏った龍の印があった。


「わあ、すごい! 勇者様、ごめんなさい。私が間違っていました。あの、名前を教えていただけませんか?」

「がはははっ! わかればいいんだよ! 特別に今回は許してやる。俺の名前は、スタ・グーグーだ!」

「ありがとうございます……!」


 私は安心した。この男が勇者じゃなくて。

 この男は勇者と偽りふんぞり返って玉座に座ってる大馬鹿野郎だ。

 『勇者の体には印が刻み込まれている』というのは子供でも知っている。だが本当は勇者に印はない。勇者に必要なのは――己を捨て『勇者となる』覚悟。名を捨てて、世界から勇者としてしか認識されなくなる覚悟。両親からも友人からも名前を呼ばれなくなり、勇者として崇められて救いを求められて……守るために戦い傷ついてもそれが当たり前だと言われる覚悟。

 勇者は命を、心をすり減らして必死に人々を守ってくれている。なのにこういう奴らのせいで、本物の勇者達が動きにくくなったりするんだ。勇者がどれだけ大変か……どれだけの覚悟を必要とするのか。

 それを知らないから、だからこういうことができるんだ。


「わかったなら、さっさとどっかに行きな」

「もう二度と、勇者様のすることに口出ししちゃ駄目だよ。お嬢さん」


 武闘家のような男が追っ払うように手を振り、魔法使いのような男が優しく私に言う。

 私は笑顔で、指を鳴らす。


「アーディル。この者達を審議にかけて。その後のことは、あなたに任せる」


 私がそう言うと、足元の影から羊のような角の生えた大男の姿をした魔物が現れる。


「承った。我が姫主」


 私と契約を結んでいる闇の審議者アーディルに、男達のことをお願いする。

 アーディルは鎖で男達を素早く捕らえ、私の方へ引く。捕らえられた男達は、その状況についていけないのか固まっていた。

 はっと気づいた男達が悲鳴をあげるのと同時に、彼らは闇に消えていく。

 私は、ただじっと男達のいた場所を見ていた。


「ありがとう。助けてくれて」


 女性の声にはっとした。そうだ。私は彼女を助けるために口を挟んだんだった。つい苛立って当初の目的を忘れてしまっていた。

 女性は優しく微笑んでいる。私は何だか気まずい気持ちになって、視線を下に移した。

 私は、また指を鳴らす。

 魔力で明るい赤色のローブを作り出し、彼女に差し出す。


「はい。これを着ていれば防御力が上がるから。それに多少攻撃力も上がるから、今回のようなことがあっても逃げられると思う」

「ありがとう。優しいのね」


 彼女は私の手からローブを受け取り、身に纏う。それを見届け「それじゃあ私はこれで」とだけ言って歩き出した。


          ***


 そうだ。そうだった。私はあのあと一人で歩き出したんだ。彼女を置いて。だけどなぜか彼女は、私の後ろをずっと付かず離れずでついてきている。

 ……結局、私の後ろをついてきている理由はわからずじまいだ。

 私は小さくため息を吐いた。

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