第六章
朝。
目覚ましが鳴る少し前に、湊は目を覚ました。
窓を開ける。
朝の空気が静かに部屋へ流れ込んできた。
コーヒーを淹れる。
お湯が落ちる音だけが、小さく響く。
机の上には昨夜読みかけた本が置かれていた。
マグカップを持って椅子に座る。
本を開く。
数ページ読み進めたところで、指が止まる。
「本って、読んでる時も好きなんだけど。」
璃子の声が、不意に浮かぶ。
「生活してる時に、ふと思い出す瞬間が好きなんだよね。」
湊はページを閉じた。
ふと笑う。
マグカップを持ち上げ、一口飲む。
窓の外では、今日も街がゆっくりと動き始めていた。
時計を見る。
そろそろ家を出る時間だった。
本を机へ戻し、
静かに玄関の扉を開ける。
璃子は目覚ましを止めると、そのまま大きく伸びをした。
勢いよくカーテンを開ける。
「……眩し。」
思わず目を細める。
昨日と変わらない朝。
それなのに、窓の外が少しだけ鮮やかに見えた。
鼻歌を歌いながら支度を始める。
鏡の前で髪を整え、服を選ぶ。
いつもなら迷わないのに、今日は二着を見比べた。
「……こっち。」
家を出る。
いつものコンビニで、いつものコーヒーを買う。
一口飲む。
「あ、美味しい。」
思わず笑みがこぼれる。
駅へ向かう。
イヤホンを耳に掛ける。
音楽を流そうとして、
そのままポケットへ戻した。
風が気持ちよかった。
なんだか今日は風を感じて歩きたくなった。
信号が青に変わる。
璃子は軽い足取りで横断歩道を渡っていく。
朝の街は、今日も変わらず人で溢れていた。
その姿は、やがて人の流れに溶け込んでいった。
第一部 現れる輪郭 完




