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宇宙の約束  作者: 創
第二部 共有された沈黙
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27/30

第二十章 いつの間にかpart2①



海へ行ってから、一週間と数日が過ぎた。


午後。


仕事の合間にスマートフォンが震えた。


画面には湊の名前。


『璃子、今日時間ある? 飲まない?』


璃子は今日の予定を頭の中で確認した。


『あるよ。行こ』


返して、スマートフォンを机へ置く。


すぐにまた震えた。


『じゃあいつものところで』


『うん』


仕事へ戻る。


資料を開いて、続きを始める。


しばらくして時計を見る。


まだ夕方には遠かった。


璃子はまた画面へ視線を戻した。


---


店へ入ると、湊はもうカウンターにいた。


「お疲れ。」


璃子に気づいて振り返る。


「お疲れ。」


隣へ座る。


マスターがグラスを置いた。


「いらっしゃい。」


「こんばんは。」


「今日は湊に呼ばれた?」


「うん。」


「へえ。」


マスターが湊を見る。


「何ですか。」


「何も。」


璃子が笑った。


「絶対なんかあるじゃん。」


「ないよ。」


「マスターじゃなくて湊が答えるんだ。」


「確かに。」


三人で笑う。


グラスを持ったところで、湊が璃子を見る。


「体調もう大丈夫?」


「まだ聞くの?」


「今日会ったから、最後に。」


「元気です。」


「ならよかった。」


「湊もでしょ?」


「俺も平気。」


「じゃあこの話、今日で終わりね。」


「了解。」


璃子はグラスを口へ運んだ。


そこからは、いつものように話した。


仕事であったこと。


友人の話。


この前食べたもの。


途中でマスターが入ってきて、全然違う話になった。


璃子が笑えば湊も笑う。


湊が話している途中で璃子が何か思い出して、話が逸れる。


それをまた湊が拾う。


何度も話題が変わった。


璃子が送った映画の話になった。


「あれ、公開日出てたよ。」


「見た。来月だよね。」


「観に行く?」


「行きたい。」


「じゃあ行こう。」


「うん。」


また一つ、予定が増えた。


そのまま次の話へ移る。


海の日から一週間以上会っていなかったのに、久しぶりという感じはしなかった。


璃子はよく笑った。


気づけば二杯目を飲んでいた。


「今日誘ってくれてよかった。」


何気なくそう言った。


湊が璃子を見る。


「俺も会いたかったから。」


璃子の指が、グラスの縁で止まった。


「おやおや。」


マスターの声。


二人が同時にそちらを見る。


マスターはグラスを拭いたまま、こちらを見ていなかった。


「何ですか。」


「いや、何も。」


「絶対なんかあるじゃん。」


璃子が笑う。


「ごゆっくり。」


マスターはそれ以上何も言わず、奥へ行った。


湊が困ったように笑った。


その指が鼻の横へ触れる。


璃子の目が止まる。


「やっぱり。」


「何?」


「今、恥ずかしかったでしょ。」


「なんで?」


「鼻。」


湊が手を見る。


「これ?」


「それ。」


「俺そんな癖ある?」


「あるよ。」


「知らなかった。」


「私は知ってる。」


湊が璃子を見る。


璃子も見返した。


一拍遅れて、湊がまた鼻へ触れた。


「またやった。」


「……もうやめようかな。」


「別にいいじゃん。」


璃子が笑う。


湊も笑った。


それからまた、何でもない話をした。


けれど時々、


俺も会いたかったから。


その声だけが、会話の隙間から戻ってきた。


---


店を出ると、夜風が頬に気持ちよかった。


二人で駅まで歩いた。


「映画楽しみだね。」


「うん。」


「今度は食べるもの、私が決めるから。」


「まだサービスエリア引きずってる?」


「一生言うかも。」


「長いな。」


「アジフライ美味しかったし。」


「はいはい。」


璃子は笑った。


駅が近づく。


「じゃあまたね。」


「うん。また。」


璃子は改札を抜けた。


電車に乗って、友人へ返信する。


動画を少し見る。


窓の外を眺める。


ぼんやり流れていた景色の途中に、


俺も会いたかったから。


また声が混ざった。


璃子は窓へ頬杖をついた。


---


家に帰って、シャワーを浴びた。


髪を乾かして、明日の支度をして、ベッドへ入る。


照明を消す。


目を閉じた。


今日の店が浮かんだ。


湊が笑っている。


目を開ける。


寝返りを打って、また閉じる。


明日の仕事を考える。


途中まで考えたところで、


鼻の横に触れた指が出てきた。


また寝返りを打つ。


今度は海の音。


あの日の横顔。


雨。


すぐ近くにあった湊の身体。


「……。」


璃子は枕へ顔を埋めた。


しばらくして顔を上げる。


風邪引かないで。


今度は声だった。


そしてまた、


俺も会いたかったから。


「……もう。」


布団を引き上げる。


眠ろうとする。


しばらく静かになる。


また、湊が出てくる。


璃子は暗い部屋で目を開けた。


時計を見る。


思っていたより時間が経っていた。


「寝よ。」


スマートフォンを伏せる。


今度こそ目を閉じた。


---


翌朝。


アラームで目を覚ます。


「……眠い。」


止めて、起き上がる。


洗面所へ向かった。


顔を洗う。


歯を磨く。


鏡の中の自分は、少し寝不足だった。


髪を整えながら、今日の予定を考える。


仕事。


帰りに買うもの。


そこへ唐突に、


俺も会いたかったから。


璃子の口元が緩んだ。


そのまま髪を触ろうとして、


手が止まる。


鏡を見る。


自分が笑っていた。


璃子の顔から、ゆっくり笑みが消える。


しばらく鏡の中の自分を見た。


昨夜、眠れなかったことも。


今、何もない朝にまた湊が出てきたことも。


もう考えなくてよかった。


璃子は鏡を見たまま、


「あー……。」


と呟いた。

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