第十五章 海が呼んでいるのでpart2⑤
店を出ると、午後の日差しがまだ通りに残っていた。
璃子は暖簾を振り返る。
「美味しかった。」
「当たりだったね。」
「でしょ。」
少し得意そうに笑う。
海へ戻る道とは反対側に、小さな店が並ぶ通りが続いていた。
璃子がそちらを見る。
「まだ時間あるよね。」
「あるよ。夕方まで何も決めてない。」
「じゃあ、あっち歩いてみたい。」
「いいね。俺も気になってた。」
二人は並んで歩き出した。
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海沿いの通りを一本外れると、街の空気が少し変わった。
観光客向けの看板が減り、魚屋や八百屋、昔からありそうな喫茶店が並んでいる。
店先では女性が隣の店の人と話し、自転車に乗った学生が笑いながら通り過ぎていった。
璃子は歩きながら何度も左右を見る。
「こういうところ歩くの楽しい。」
「観光地っぽくないところ?」
「うん。普通にここで生活してる感じがする。」
湊も通りを見る。
「名所もいいけど、こういうところの方がその街のこと覚えてたりする。」
「じゃあ来て正解だったね。」
「アジフライもあったし。」
璃子が笑う。
「それ大事。」
少し先の店先に、見慣れない柑橘が並んでいた。
璃子が立ち止まる。
「これ何だろ。」
店の人に勧められて、一切れずつ味見する。
璃子は口に入れた瞬間、眉を寄せた。
「すっぱ。」
湊も食べる。
「でも香りいいね。」
璃子はもう一切れ口に入れる。
今度は少しゆっくり噛んだ。
「あ、美味しい。」
「魚にかけたら合いそう。」
「買って帰ろうかな。」
璃子は二つ選んだ。
紙袋を受け取って店を出る。
「こういうの買うと旅行っぽいね。」
「今日はたくさん食べるね。」
「旅行かな?」
湊は少し笑った。
「そうだね。今日は楽しいよ。」
璃子が横を見る。
「私も楽しい。」
少し先に土産物屋が見えた。
「お土産買って帰ろう。」
「いいね。」
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店の中には地元のお菓子や乾物が並んでいた。
璃子は友人への土産をいくつか見比べる。
「これどう思う?」
湊が横から見る。
「その子、甘いの好きなんだよね。」
「うん。」
「じゃあ、こっちの方が好きそうじゃない?」
隣の棚を指す。
璃子が手に取る。
「あ、こっちいいかも。」
「見た目もかわいいね。」
「じゃあこれにする。」
籠へ入れる。
少し歩いて、璃子が別の棚を見る。
「自分のも欲しくなってきた。」
湊が璃子の持つ紙袋を見る。
「帰る頃には手荷物いっぱいになってそうだね。」
「まだ持てる。」
「璃子、これとかどう?」
小さな焼き菓子の箱を取る。
璃子が受け取った。
「好き。」
「やっぱり。」
「なんで分かったの?」
「さっき似たやつ見てたから。」
璃子は箱をもう一度見る。
「じゃあこれ買う。」
「うん。」
会計を終えて店を出ると、璃子の手に紙袋が一つ増えていた。
湊がその一つを取る。
「持つよ。」
璃子はそのまま渡した。
「ありがとう。」
「うん。」
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その後も二人は街を歩いた。
小さな漁港まで行き、並んだ船を眺めた。
途中で見つけた坂を上ると、街と海を一緒に見渡せる場所があった。
璃子は何枚も写真を撮った。
湊も撮った。
時々、互いの写真を撮った。
気付けば昼の強い光は少しずつ柔らかくなっていた。
坂を下りたところで、璃子が言った。
「ちょっと休みたい。」
「俺も。」
近くの喫茶店に入る。
窓際の席。
璃子はアイスコーヒー。
湊も同じものを頼んだ。
「一緒だ。」
「今日は冷たいの飲みたいね。」
「結構歩いたもんね。」
「でも楽しかった。」
璃子は窓の外を見る。
さっき歩いてきた通りが見える。
「知らない街って、歩いてるだけでも面白いね。」
「予定決めすぎなくてよかったね。」
「うん。このくらいが好きかも。」
「俺も。」
飲み物が運ばれてくる。
璃子が一口飲む。
「美味しい。」
湊も飲む。
「生き返る。」
璃子が笑う。
少しして、窓の外の色が変わっていることに気付いた。
「もう夕方だ。」
湊も外を見る。
「ほんとだね。」
璃子は海の方角を見る。
「最後にもう一回、海見たい。」
「俺も見たいと思ってた。」
「じゃあ行こ。」
「うん。」
二人は残っていたコーヒーを飲み終えた。
店を出ると、昼間より風が少し涼しくなっていた。
海の方へ歩き出す。
通りの向こうで、空がゆっくり色を変え始めていた。




