↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
宇宙の約束  作者: 創
第二部 共有された沈黙
PR
13/30

第六章 いつの間にか③

翌週。


続いていた忙しさも、ようやく少し落ち着いていた。

昼間の暑さは相変わらずだったが、日が沈んだあとの風には、真夏の盛りとは少し違うものが混じり始めていた。


湊は仕事を終えると、スマートフォンを取り出した。

(今日バー行く?)


少しして返信が届く。


(行く☺️久しぶりだね)


湊は画面を見て、少し笑った。


(じゃあ後で。)


バーの扉を開ける。

ベルが鳴った。


「こんばんは。」


「いらっしゃい。」


マスターがいつものように顔を上げる。


璃子はまだ来ていなかった。


湊はカウンターへ座り、鞄を足元へ置いた。


「少し久しぶりだね。」


マスターがグラスを用意しながら言う。


「仕事がちょっと忙しくて。」


「璃子ちゃんも最近見なかったな。」


「忙しかったみたいです。」


「そう。」


マスターが酒を注ぐ。


湊が一口飲んだところで、扉のベルが鳴った。


「こんばんは。」


璃子だった。


湊を見ると、少し嬉しそうに笑った。


「おつかれ。」


「おつかれ。」


璃子はそのまま隣へ座る。


「暑かった。」


「今日もすごかったね。」


「駅からここまでだけで嫌になった。」


マスターが水を置く。


「まずこれ飲んだ方がいいよ。」


「ありがとう。」


璃子は水を半分ほど飲んでから、鞄を開いた。


「あ、そうだ。」


小さな紙袋を取り出す。


「これ。」


湊が受け取る。


「なに?」


「お土産。」


「俺に?」


「うん。マスターにもあるよ。」


璃子はもう一つ取り出して、マスターへ差し出した。


「おや、僕にも。」


「ちゃんとあります。」


「ありがとう。」


マスターは袋を受け取り、小さく笑った。


湊は手元の紙袋を見る。


「ありがとう。」


「この前ちょっと出かけた時に見つけて。好きそうだったから。」


「嬉しい。」


璃子は少しだけ照れたように笑って、マスターへ注文した。

久しぶりに会ったせいなのか、話題はいくらでも出てきた。


仕事のこと。

最近読んだ本。

璃子が出かけた先で見たもの。

最近観た映画。


途中でマスターが料理を置き、空いたグラスを下げる。


話が一段落した頃、マスターが思い出したように口を開いた。

「そういえば、駅の向こうの映画館で来週からあの小説の映画やるみたいだよ。」


璃子が顔を上げる。


「あ、もう始まるんだ。」


「二人とも前に話してたから、好きなんじゃないかと思って。」


湊が璃子を見る。


「観たい?」


「観たい。」


璃子はすぐに答えてから、少し笑った。

湊も笑う。


「じゃあ行ってみる?」


「うん、行こ。」


マスターは二人の前へ新しいグラスを置いた。


「決まりだね。」


璃子がグラスを持ち上げる。


「マスターが教えてくれなかったら忘れてた。」


「映画は逃げないけど、上映は終わるからね。」


「それはそう。」


璃子が笑う。

店を出る頃には、夜もだいぶ深くなっていた。


「ごちそうさまでした。」


「ごちそうさま。」


マスターが二人を見送る。


「まだ暑いから、帰ったらちゃんと水飲んでね。」


「はーい。」


璃子が手を振る。


湊も軽く頭を下げ、二人で店を出た。


駅へ向かう道を並んで歩く。


しばらくすると、道沿いの公園が見えてきた。


何度も前を通っていた場所だった。


街灯の光が、木々の間からベンチを照らしている。


璃子が公園へ目を向けた。


「そういえばさ、ここいつも通るけど入ったことないよね。」


湊も中を見る。


「ないね。」


璃子は少しだけ歩く速度を落とした。


「ちょっと寄ってく?」


「いいよ。」


二人は公園へ入った。


昼間に蓄えた熱が、まだ地面のどこかに残っている。


それでも木々の間を抜ける風は、通りを歩いていた時より少し涼しかった。


自動販売機で水を買い、空いていたベンチへ座る。


少し離れたところで、蝉が一度だけ鳴いた。


璃子がペットボトルを開ける。


「なんか、ここいいね。」


湊も水を一口飲む。


「うん。」


しばらく二人で風に当たっていた。


さっきまであれだけ話していたのに、今はどちらも口を開かなかった。


璃子はぼんやりと木々を見上げている。

湊も同じ方を見る。


風が吹くたび、葉が小さく揺れた。

やがて璃子が立ち上がる。


「そろそろ行こっか。」


「うん。」


二人はまた駅へ向かって歩き出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。