9 従属の魔法
「お待ちしておりました」
「「「お出迎え、ありがとうございます」」」
今日、モカとハルキとライオネルと私がやって来たのは、オルグレン王国の王都にある大神殿。私達が召喚された場所でもある。
私達は普段王城で過ごしているから、この神殿に来るのは召喚されて以降初めてとなる。ちなみに、筆頭聖女のクラリーチェ様は、公爵令嬢だけど、この大神殿で暮らしているそうで、そのクラリーチェ様が私達を出迎えてくれている。
今日は、そのクラリーチェ様と、他の数名の聖女と何やら令嬢と令息も居るらしい。
ー見合いか?ー
とは言えなかった。人間の貴族ではあるあるで、年頃になる前に顔合わせのお茶会を開いたりする。召喚された3人と繋がりを持ちたい貴族は沢山いる。ただ、この3人が生涯この世界で過ごすのか、過ごせるのかは分からないけど。
そうして、案内されてやって来たのは大神殿の奥にある庭園だった。その庭園には、パルテンツァ女神の象徴である桜の木があった。女神と同じ色とされているピンク色の花が、綺麗に咲き誇っている。
「この世界でも桜が見られるなんて……」
どうやら、モカの世界にも桜があるそうで、モカも喜んでいる。
「ここには桜の木しかありませんが、もう少し奥に行くと、白木蓮と鳳凰木もありますよ」
ー白木蓮!?ー
白木蓮は、獣人の創造神オリフェン神の象徴の木で、鳳凰木は魔族の創造神アンファング神の象徴の木だ。私の住んでいるアルミリオン王国には、至る所に白木蓮の木があって、クレマチス家の庭にもあって、私のお気に入りの場所でもあった。
『白木蓮……どこにあるの?』
「ん?マヒナは、白木蓮の木が見たいの?」
『見たい!行って来てもいい?』
「あの……マヒナが白木蓮の木が見たいと言ってるんですけど、いいでしょうか?」
「勿論、構いませんよ。このまま奥に行けば、すぐに分かりますよ」
クラリーチェ様から許しを得て、私は急いで走り出した。
『白木蓮だ……』
アルミリオンではよくある木。探さなくても、どこにでもある木。2ヶ月ぶりに目にした木。勿論、この白木蓮の木に穴なんてないし、穴を開ける事もできない。
クレマチスにある白木蓮の木には、魔石を使って快適な空調が保たれていて、1年中快適に過ごせる巣穴がある。お父様が、お母様の為に作った巣穴で、今は私のお気に入りのお昼寝スペースになっている。
ーお父様と、兄さん達は元気にしてるかな?ー
未だに、モカにも私が獣人だと伝えられていない。私が獣人だと知られたら、どういう扱いになるのか分からないから。獣人が、人間や魔族に奴隷として売買される可能性がある限り、そう簡単に言える事じゃない。自国ならまだしも、ここは人間の国でアルミリオンからも遠く離れているから、逃げ切れる自信もない。
ポテポテと歩いて白木蓮の木のもとに座る。
ーいつになったら帰れるんだろう?ー
モカを見捨てる気持ちはないけど、かといって帰りたくないわけじゃないし、帰る事を諦めているわけでもない。
「お前にはまだ、逃げる気持ちが残っているんだな?」
『コルラード……』
ーどうしてコイツがここに?ー
「お前が外に出ると聞いて、逃げるかもしれないと思って……ついて来て正解だったな」
まさか、まだ逃げると思われていて、更につけられているなんて思ってなかった。
「馬鹿なのか何なのか……とにかく、もう逃げられないようにしておくしかないな」
コルラードが何かをブツブツと呟き始めると、小さな魔法陣が現れた。それは、何とも言えない嫌な感じのする魔法陣だった。
「隷の名は“マヒナ”」
『っ!?』
「主の名は“モカ=シミズ”」
『ギーギーッ!』
「主への絶対的な従属の契約を結ぶ」
『───っ!!』
コルラードがその言葉を言い終わると、その魔法陣が私の体に吸収され、ギリギリと私の体が痛みだした。
「これは、今では禁忌とされている従属の魔法だ。お前の主であるモカ様から逃げたり離れようとすると、今のように体が痛みで覆われるんだ」
従属の魔法──それは、獣人が奴隷として扱われていた時に使用されていた魔法だ。今は禁忌とされていて、使用されると厳しく罰せられる。
「ああ、モカ様に助けを求めようとしても無駄だからね。従属の魔法と一緒に、この事を話せないように魔法をかけてあるから、この事を誰かに話そうとすると、今よりもっと激しい痛みに襲われるから」
『なっ!?』
これ以上の痛みに襲われたら、命に関わってくるかもしれない。そもそも、普通のモモンガならもう死んでたかもしれない。嫌な奴だと思っていたけど……最低最悪な奴だった。
「ほら、早くモカ様の所に戻れ。戻らなければ、その痛みも治まらないぞ?」
ふっ……と嗤った後、コルラードはどこかへと去って行った。




