7 嫌な奴
ジェンナ様が去った後、モカはその場に蹲った。
『大丈夫?』
「あ……大丈夫じゃないから、部屋に戻るわ」
そうして、私達も部屋に戻る事にした。
『何かあった?』
「今日、トリスタンさんが居なくて良かった……居たら修羅場になったかも……」
ー何故、修羅場?ー
相変わらず、モカはよく分からない事を言う。何故、挨拶をするだけで修羅場になるのか。
「私が、いつもトリスタンさんと一緒に居るでしょう?ジェンナさんにとっては、私は“婚約者の時間を奪って傍に居る女”になるでしょう?ジェンナさんにとったら、私は邪魔者でしかないの」
ーいや、一緒に居て護衛するのが仕事だからね?邪魔者にはならないよね?ー
「それで私が目障りになって、私を排除しようとして……でもそれでトリスタンさんが私を庇うと更に攻撃されて──」
『モカ、落ち着いて?』
ーどうしてこんな思考になるのかなぁ?ー
モカは、いつも斜め上の思考をする。トリスタンさんは“聖女を護る”仕事をしているだけだし、そんな馬鹿な理由で、聖女を排除しようとするような人なんて居るはずがない。
私には婚約者は居ないから、恋愛感情はいまいち分からないけど、貴族同士の婚約や結婚となれば、そんな事でゴタゴタする事は……無いよね?
『起こってもない事に悩んでも疲れるだけだよ?今は、目の前の事を頑張ろう!』
「マヒナ……そうだね……うん!私もラノベ展開を気にし過ぎかも。ありがとう。今日はゆっくり休んで、明日からまた頑張る!」
斜め上思考なモカだけど、前向きに頑張るモカには、すぐに好感を持てた。いつも、皆の前では笑顔のモカ。それでも、私だけが知っている。毎日ではないけど、夜寝ている時に泣いたりしている事を。納得?してここに来たと言っても、元の世界が恋しくないわけじゃない。そんなモカを見ていると、傍に居てあげたくなった──とはいえ、私の方も色々と問題がある事に変わりない。
一番の問題は、お父様がいつまでもつかだ。
ー何とかして連絡手段を見付けないとー
******
「流石は聖女モカ様。飲み込みが早いですね」
「ありがとうございます」
あれから、あっという間に2ヶ月。
今日のモカは、午前中は魔法の訓練で、昼からはこの世界についての座学となっていて、今は結界の張られた訓練場で指導を受けている。指導しているのは、魔道士のコルラード=カシアス。魔道士としては中間クラスだけど、光属性の魔法と聖女に関する研究の第一人者らしく、その理由でモカの指導をする事になったそうだ。確かに、光の魔法や聖女に関しての知識は豊富で、指導も的確。モカには「これでもか!!」というほど優しくて丁寧──どころか、崇拝的な献身ぶり。
「モカの魔法の色はキレイだね」
「ありがとう。ライオネルさんはいろんな色があるんだね」
今日の訓練は、ライオネルも一緒。もうすでに、4つの属性の魔法を扱えているからすごい。モカの魔力の色は白だけど、ライオネルは扱う属性によって色が変わるから、見ていると面白い。
ー眠いなぁー
モモンガでも獣人となれば、昼間に活動して夜に寝るけど、ずっとモモンガのままだからなのか、日中は眠たくなる事が多くなった。とにかく、太陽の光も眩しい。モカ達の訓練はまだまだ続く。となれば、お昼寝ができる──と思って寝床を探しにフラッと歩き始める。
「お前、どこに行くんだ!?お前は聖女様の傍に居なければならないんだろう!」
『ぐぇ───っ』
眠気も一瞬でぶっ飛ぶ勢いで体を鷲掴みにされた。私を無遠慮に鷲掴みしているのは、魔道士のコルラード。こいつは、私の事を良く思っていないどころか、多分嫌っている。モカが見ていないところでの、私への対応が酷い。鷲掴みはしょっちゅうだし、力が強くてお腹が痛くなる。何故対応が酷いのか?
『聖女様に選ばれたくせに、何度も何度も逃げようとして聖女様を悲しませるとは!聖女様が望む存在じゃなかったら、俺は今すぐにでもお前を消してやるのに!』
なんてことを言われた。それから、私が少しでもモカから離れようとすると鷲掴みにされるようになった。
『役立たずの獣』
『昼は寝るしか能のない獣』
『落ちることしかできない獣』
と、色んな口撃をしてくる陰険な男だ。
今も私を鷲掴みにしている力を緩める事はない。
ー元の姿に戻った時は覚えてなさいー
と思っているけど、いつ戻れるのかサッパリ分からない。
『………きゅう……………』
「そんなに小さくて弱い者を虐めて楽しいのか?」
「なっ!?」
『っ!!』
その声に体が震えて反応した後、お腹の圧迫感と痛みから解放された。この声は──
「グランジオール様!べっ……別に虐めてなんていません。この獣がまた逃げようとしたから捕まえただけで!」
「何故『逃げようとした』と決めつけるんだ?」
「この獣に、逃げる以外の能はないでしょう」
「はぁ……そもそも、逃げ出したりしていたのは最初の頃だけで、今はモカ様に懐いているだろう?それに、今は昼だから、ただ単に寝床を探そうとしていただけの可能性の方が高いと思うが?」
イケボな騎士、ディンベル=グランジオール様だ。




