5 名前
「確かに、お助けキャラは色んなパターンがあるから、そのモモンガが『そうだ』と言われたら納得かもね」
「モモンガか……“最強のリス”なら強力な助っ人だったろうけど、この子はどうなんだろう?というか、意思疎通できるの?」
「今のところは全くです……まだ打ち解けてないからかなぁ?」
どうやら、この3人は私が普通のモモンガだと思っているようだ。神殿に居た人達も気付いていないようだった。動物の姿だと、人間からすると獣人なのか普通に動物なのかの見分けはつきにくいらしい。
ただ、さっきから人の姿になろうとしてもなれない状態になっている。
ーしばらくの間は、おとなしくしておくしかないよねー
「あ、名前をつけてみたら?」
「あ!そうですね!うーん……“マヒナ”なんてどうかな?」
「“月”っていう意味だね。毛色が月光の色と同じで良いかもな」
「ふふっ。貴方は今から“マヒナ”よ。これから、よろしくね」
ー何!?ー
名前を付けられ呼ばれると、体がポワッと温かくなった。ただ、それは一瞬の事で、今は何ともない。
『何だったんだろう?』
「え?何か言った?」
「「何も言ってないよ」」
「え?でも……まさか!?マヒナ、何か私に話しかけてみて!」
モカがワクワクした顔をして私を見ている。
『……体、大丈夫?』
「んーっ!!大丈夫よ!マヒナは優しい子なのね!やっぱり名前を付けた事で繋がりができたみたい!言葉が分かるわ!」
ーえ!?そうなの!?ー
と、心の中の声は聞こえないようだけど、口にした言葉はモカに通じるようだった。ただ、本当に通じるのはモカだけで、ハルキとライオネルには通じていなかった。
「ラノベあるあるだけど、やっぱり名前って大事なんだな」
今は禁忌とされていたりするけど、昔は名前で相手を縛る呪術のようなものもあった。だからか、今でも高位貴族の中ではいくつかの名前を持っている人も居る。
「改めて、貴方の事“マヒナ”と呼んでも良い?」
『いいよ』
ー念の為に、オリアナは隠しておこうー
「それと、捕まえてしまってごめんね?でも、どうしても……傍に居て欲しい!私が無事に生き残る為に!!」
生き残る為に──と言われたら、簡単に嫌だとは言い難い。そもそも、異世界から来たばかりの若い子たち。せめて、この世界に慣れる迄なら……。
ーその間に、逃げる準備をすればいいー
『分かったわ』
「ありがとう!マヒナ!!」
パッと笑顔になるモカは、とても可愛らしいなと思った。
ただ、一つ問題があるとすれば……クレマチス家だ。あの家は、総出で私に過保護だから、私が何の連絡もなしに居なくなったりしたらどうなるか……。想像するだけで恐ろしい。しかも、東西南北の辺境伯が揃っていた。その辺境伯様達からも可愛がられていた。
ーせめて、争いが……起きない事を祈っておこうー
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馬車に揺られて1時間ほどで王城に到着。
そこからは、3人がそれぞれの客室に案内されて、今日は部屋でゆっくり過ごす事になった。
「モモンガの寝床はこちらになります」
「ありがとうございます」
勿論、私はモカと同じ部屋で、そこに私の寝床となる籠も用意されていた。その籠は筒状になっていて、中はフワフワの生地が詰められていた。
『気持ちいい!!』
「マヒナ、気に入ったのね。良かった」
野生のモモンガは夜行性。私は獣人だから、普通に日中に活動するけど、モモンガ姿のままだからか、さっきからどうにも眠気が強い。そこでのフワフワの寝床。これはもう、素直に寝るしかない。
『少しだけ……寝るから……』
「可愛い!おやすみ!!」
チョンチョンと頭を撫でられた後、私はあっという間に眠りに落ちた。
**アルミリオン王国**
「リアは見付かったか!?」
「それが……まだ………」
「一体どこに行ったんだ!?」
リア──オリアナ。クレマチス辺境伯の唯一の姫で、俺の妹。
俺はリアの兄のオルフェオ。昨日、父と一緒に東西南北の辺境伯の会議に出席していた。その会議が終わったのがお昼過ぎ。それから少し遅めのランチをした後、リアが居るだろう場所に行ってみたけど、そこにリアは居なかった。ただ、それは別におかしなことではなかった。リアは活発な子で、森に散歩に行ったり、街に買い物に出かけたりする事もよくあったから。
ー夕食迄には戻って来るだろうー
と、あの時は軽い気持ちで考えていた。それが、夕食どころか夜になっても日付が変わっても、リアは帰って来なかった。
そうして、クレマチス家総出で捜索活動を始めたのに……リアはどこにも居なかった。
リアは可愛い。モモンガの姿は更に可愛い。可愛いが故に、幼い頃は攫われそうになった事もある。だから、父はより一層リアに自身の身を護る術を叩き込んだ。
もともとの才能もあったのか、リアはすぐに有能な騎士となった。そんなリアが、簡単に人攫いに遭ったとは考え難い。
家出なんて事はないだろう。クレマチス家は仲が良い。
「捜索範囲を広げるか……」
1日も早く、無事に見つかりますように──




