42 最終話
「もふもふーっ!可愛い!!」
「モカ、お疲れ様……ふふっ……」
モカが召喚されてから6年。リナルド兄さんと結婚してから2年が過ぎ、今日、2人の子供が生まれた。生まれたのは虎の子で、モカの出産直後の第一声が「もふもふ」だった。人間にとって、お腹から獣が出て来る事に抵抗がある事があると聞いていて心配していたけど、モカは虎の子が生まれて大喜びした。
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「オリー、今日はお疲れ様」
「あ、ディンベル、おかえりなさい」
庭園のガゼボでお茶をしていると、ディンベルが帰って来た。
ディンベルと結婚して3年。ディンベルは今ではトップレベルのクレマチスの辺境騎士で、騎士を目指す者達の指導をしたりもしている。今日は、兄嫁のモカが出産したという報せがあったそうで、いつもより早い時間に帰って来たそうだ。
「虎の子だと聞いたけど」
「うん。リナルド兄さんと同じ、オレンジ色の虎だけど、瞳はモカと同じ黒色で、すごく可愛いの!!モカなんて、『もふもふ!』って喜んでたよ」
「モカらしいな……エレナは?」
「エレナは、今白木蓮でお昼寝中なの」
エレナ──2年前に生まれた、ディンベルと私の子で、モモンガ獣人の女の子。女の子だったから、またまた一族一同が大騒ぎになった。今はまだ幼いから平穏な日々を送っているけど、それなりの歳になると、父のあの特訓が始まるのか──と思うと、今から気が気ではないというのが本音だったりする。
「そうか、なら……」
「ん?ひゃあっ!?」
「暫くは大丈夫だな」
「大丈夫ってどういう──」
「オリーとの時間が足りない。オリー不足だから、今のうちに補充しないとな」
「ふぉぉぉ………」
右耳にイケボで呟かれると、体の力が抜けてしまう事を知っているディンベル。結婚して3年経つのに全く慣れない。慣れる気もしない。寧ろ、年々より敏感に反応するようになっている気がする。
苦手だった魔力の扱いも上手くなって、剣の腕前も上がって、騎士暦が長いせいか料理もそこそこできて、意外と子供の面倒見も良い。冷たい目をしてるけど、私と娘に向ける眼差しはとことん甘くて優しい。寝床にもなる手は、温かくて一番の安全地帯。
「ディンベルに弱点はないの?」
「どうかな?」
不敵に微笑むイケメンの破壊力。何もかもが勝てる気がしない。
「あ、『好きだ』っていう気持ちだけは勝ってるかも!」
「そうか……」
なんて、口にしたのが間違いだった。
『俺も、それに関しては負けてるつもりはない』と、右耳に呟かれた後、その言葉通り思い知らされる羽目になった。
『どっちが獣なの!?』と叫びそうになった──事は、恥ずかし過ぎるから、私の心の中だけに仕舞っておいた。
とにかく、逃げられなかった私だけど、今は幸せいっぱいの毎日を過ごしている。
*ディンベル視点*
可愛いモモンガが増えた。娘のエレナは瞳の色が俺と同じ碧色だけど、それ以外の見た目はオリーにそっくりだ。2人が寝ている姿は癒やしでしかない。あまりにも可愛いから、義父のクレマチス辺境伯のように、エレナを鍛え上げる事ができるのか──
ーできる気がしないー
可愛い娘もできて、辺境騎士としても上手くやっていて、幸せな日々を送っているが、オリーとの時間がない事だけが辛い。オリーが足りない。最後に一緒に寝たのはいつだったのか?
そうして、ようやく2人だけの時間ができた時、オリーに弱点はないのか?と聞かれた。オリーの中で、俺は完璧な人間と思われているようだが、俺の弱点はオリーとエレナだ。2人に何かあったら、俺も普通では居られないだろう。好き過ぎてどうして良いかも分からなかったりもする──のに、『好きだ』と言う気持ちだけは自分の方が勝っていると言うオリー。
ーまだまだ分かってないのかー
俺がどれだけオリーが好きなのか、愛しているのか、まだまだ分かっていないオリーに、たっぷりとゆっくりと思い知らせた。
いつもは強気なオリーも、あの時ばかりは俺に必死にしがみついて……それがまた俺を煽っているという事に気付いていないところがまた可愛い。俺の腕の中にすっぽりと収まって寝ているオリーの肌は、未だにほんのりと赤い。
大事にしたい──
滅茶苦茶に乱したい──
相反する思いに駆られて、手加減が分からなくなってしまう。
「オリー……」
「…………」
召喚に巻き込まれたモモンガ。モカが望まなければ、あの時、鷲掴みする事なく逃していただろう。
「俺に捕らわれてくれて、ありがとう」
「……イケボ……………」
そんな寝言を言うオリーを抱きしめたまま、俺も目を閉じた。




