41 好きになったら負け
*オリアナ視点*
オルグレン王国の淀みや亀裂の浄化が済み、魔獣の出現も落ち着いたのは、モカが召喚されてから2年経った頃だった。
「2年もクレマチスから離れるとは思わなかったなぁ……」
18歳だったモカも20歳になって、幼さも抜けて『可愛い』から『綺麗』と言われるようになった。だからか、リナルド兄さんのモカへの過保護ぶりが悪化していて面白い。リナルド兄さんが、常にモカにベッタリ付きっきりで、もはや護衛としての私が不要なぐらいだ。
『ずっと一緒で疲れない?鬱陶しくない?』とモカに聞けば『一緒に居られて嬉しい』と言われて、2人が幸せそうだから、それからは私も何も言っていない。
オルフェオ兄さんは、1年前に先にアルミリオンのクレマチスに帰った。その頃には、魔獣の出現率も減ってきていたのと、オルフェオ兄さんはクレマチス辺境伯の嫡男で、クレマチスに嫁を残していた事もあり、先に帰国する事になった。ちなみに、オルフェオ兄さんの嫁──ミラーナ義姉さんは狼獣人だ。
筆頭聖女クラリーチェ=アズバルト
クラリーチェ様は、結局、大怪我が完治する事はなく、その大怪我が元であの報告を受けてから3ヶ月後に地下牢でひっそりと息を引き取った。詳しくは知らされていないけど、大怪我よりも、神経衰弱による要因が大きかったそうだ。毎日『助けて』『あっちに行って』と大声で叫んだりしていたそうだ。
そのクラリーチェ様の死の後、溺愛していた娘が死んでショックだったのか、アズバルト公爵も地方領で療養引退する事になり、クラリーチェ様以外の子が居なかった為、公爵位は傍系の親族が継ぐ事になった。それが本当の理由なのかどうかは──私の知るところではない。
モカは筆頭聖女になれる実力があるけど、リナルド兄さんとの婚約と結婚が決まっているから、その座に就く事を断った。年下だけど、私の義姉になる。
そして、私は───
「オリー、荷造りはできた?」
「バッチリです。後は自分だけかな」
「俺もだよね?」
「そう……だね……」
ディンベルさんとのお付き合いは続いていて、昨日、婚約が無事に成立したばかり。そして、明日、私はディンベルさんと一緒にクレマチスに帰る事になった。私がディンベルさんと結婚すれば、ディンベルさんはグランジオール公爵家の嫡男だから、オルグレンで暮らす事になるだろう──と思っていたけど『え?俺がクレマチスに行くよ?』と言われた。もともと、嫡男でありながら、家督を継ぐ意志はなかったようで、次期公爵はディンベルさんの従兄弟が継ぐ事がほぼ決まっているらしい。
「特に、第一騎士団の副団長の地位にも未練はないし、正直、オリーが居ればどこでも問題無いからね」
「ふぉぉぉ………」
イケボであんな事言われたら、腰を抜かしそうになる──という事を実感したのはつい最近の事。私がディンベルさんの声に弱いと知っているから、ここぞという時はとんでもなく良い声を出す。
とにかく、2人で一緒にクレマチスに帰り、ディンベルさんも暫くの間クレマチスで過ごす事になっている。その後は、ディンベルさんだけオルグレンに戻り、離れ離れになる。
結婚式は1年後。その3ヶ月前に、再びクレマチスに来てもらい、そのままここでの生活を始める予定。離れ離れになるのは寂しいけど、少し我慢すれば、後は一緒に居られると分かっているから大丈夫。
モカとリナルド兄さんの結婚式は2年後。モカが召喚された聖女だから、オルグレンの大神殿で大々的に執り行われる事になっている。その後は、モカもクレマチスで暮らす許可がおりている。それ迄は、リナルド兄さんもオルグレンに居るらしい。そのリナルド兄さんは、騎士団で指導をしたり、モカの護衛をしたりしている。
「召喚に巻き込まれて捕まった時は、こんな事になるとは思わなかったなぁ」
「それは俺もだな。まさか、あの時に鷲掴みにしたモモンガを好きになるとは思わなかったが、あの時、モモンガを捕まえた俺を褒めてやりたい」
「っ!?」
チュッ──と、さり気なく、流れるように私の右耳にキスをするディンベルさん。私が右耳が弱い事を知っていての行動だ。
「本当に……ディンベルさんは意地悪だよね!?」
「愛しい婚約者に愛情表現しているだけだが?」
「く──っ」
イケボでのこのセリフ。これで堕ちない人はいないだろうし、これ以上責める気持ちだって消え失せてしまう。好きになった方が負け──と言うのは、本当の事だった。
*ディンベル視点*
オリアナを『オリー』と呼ぶようになって1年。召喚聖女のペットだったモモンガが、今では俺の婚約者で、俺の唯一の愛しい女性。モモンガになっても可愛いし、人の姿は更に可愛いし、俺の声にいちいち反応して、右耳を攻めれば過剰反応する。
ー本当に、どうしてくれようか?ー




