40 筆頭聖女の末路
「私は先に帰らないといけないから、リア達が帰って来るのを待っているよ。大丈夫だとは思うけど、体には気を付けるように」
「はい、お父様も気を付けてね」
西、東、北の辺境伯の騎士を派遣してくれているとはいえ、辺境伯が長期間領地を留守にするわけにはいかず、父は私と再会してから3日後にはクレマチスへと帰って行った。
それから3日後。
「あの聖女、少し前に大怪我をしたみたいで、今は地下牢で臥せっているらしいよ」
地下牢で大怪我とは?立ち入りが制限されていて、刃物などの持ち込みは禁止されていて、見張りや魔法などで厳重に監禁されているはずなのに。単純に転んだだけで大怪我をする事はない……よね?
「自分で治癒する力も無いらしいし、罪人だからね。魔法での治療はされてないらしいよ」
一般的な治療は施されているのに臥せっている──となれば、かなりの大怪我なんだろう。
ークラリーチェ様はどうなるのかな?ー
**クラリーチェ視点**
(クレマチス辺境伯が、地下牢から去った直後)
私の魔力は光だと信じていた。だから、聖女と認められた時、王太子殿下やディンベルから求められる存在になろうと努力した。お陰で、私は筆頭聖女になった。それなのに、あの2人は私を選ばなかった。流石にペルラに手を出す事はできなかったけど、召喚されただけで聖女になれたモカは許せなかった。“選ばれた聖女”というだけでちやほやされて、私を脅かす存在。だから、そんな存在になる前に、ジェンナを使って潰そうと思ったのに。あの獣人達のせいで、全てが狂ってしまった。
「どうして、聖女であり公爵令嬢でもある私が、地下牢に閉じ込められなければならないの!?」
あの獣人がやって来たのは、そんなイライラが爆発する寸前の時だった。
その獣人は、挨拶もせず名乗りもせず私を非難する言葉を続けた。しかも、私が本当は闇の魔力持ちだという事や、転嫁の魔法に関しても知っていた。これは、アズバルト家でも限られた者しか知らない事なのに。
それから、その獣人から魔力が一気に溢れた瞬間、体が一気に重くなり視界がぐにゃぐにゃと歪みだした。
「数日耐えられれば元に戻れる。たった数日を耐えるだけだ。簡単だろう?健闘を祈るよ」
「なっ……待ちなさい!こんな事が許されるとでも──」
その獣人は、それ以上は何の説明をする事もなく、一度も振り返る事もなく立ち去って行った。
『た……すけて……』
ー一体、何が起こっているの?ー
今、私の目の前に、私がかつて治癒を施した平民が、私に助けを求めて手を伸ばしている。その顔に覚えがある。あれは、魔獣の毒を喰らって上半身の皮膚が火傷したようにただれていて、神経の損傷もあった侯爵家の子息の大怪我を転嫁した平民の女性だ。彼女は、風邪を拗らせて高熱で意識を失っていたところを、婚約者が連れて来て治癒をした。その時に転嫁できたお陰で、子息は無事に回復した。平民の女性は、1週間も経たずに死んだ。ここに居る筈がない。
『その……ちゆ……のちからを……わたしに……』
爛れた手が私の左足首を掴んだ。
「はっ……離しなさい!穢らわしい!!」
足を振っても、爛れた手を踏みつけても、その手は私の左足首から離れない。それどころか、掴んでいる力がより一層強くなった。
「痛いっ!離しなさい!!誰か!左足首を──」
ザクッ───
「え?」
助けを求めて声をあげると、その爛れた手に短剣が突き刺さり、その爛れた手が消えて──
「ああああああ───っ!!」
短剣は私の左足首に突き刺さっていた。左足首は、私の魔力の核となる場所だ。そこを刺されたという事は、魔力が失われるという事。そして、そのまま放置すると、命も失ってしまうという事だ。
「誰か……お願い……助け………」
「俺も、貴方に『助けて欲しい』とお願いしたのに」
「え?だ……れ?」
痛みに蹲っている私の目の前に、さきほどまで獣人と一緒に居た騎士が居た。
「ただの風邪だから心配するなと。それなのに……彼女が死んでショックだったけど、聖女様に助けられたのは事実だと感謝して、恩返しをする為にと……聖騎士を目指していたのに………まさか、その聖女が………」
「ちが……」
この騎士が、あの平民女性の婚約者だったなんて……。転嫁した者達の顔は覚えているけど、付き添いの者達の顔までは覚えていなかった。
「ごめ……なさ……おねがい……だれか……」
「俺が、助けを呼ぶとでも?ふざけるな!騎士道に背く事になっても……俺は、アンタを助ける事も赦す事もしない!」
「おねが……まって……!」
助けを求めて手を伸ばしたけど、その男は地下牢から出て行ってしまった。
短剣は、私の左足首に刺さったまま。抜くのは良くない──と言う事だけは分かる。次に人がやって来るのは夕食で、まだまだ何時間もある。止血をして……後は痛みに耐えられるのか?と何とか気持ちを落ち着かせようとしていると、また視界がぐにゃっと歪み──
『たすけて……』
「──っ!!」
また目の前に、私に助けを求める、見覚えのある平民が現れた。




