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巻き込まれただけなので、逃げようとしたけど失敗したようです  作者: みん


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39 クレマチス辺境伯②

*クレマチス辺境伯視点*



筆頭聖女クラリーチェ=アズバルト公爵令嬢。平民にも分け隔てなく手を差し伸べる、清廉潔白な聖女。平民からの人気もある。


公爵令嬢という事もあり、同じ公爵子息のディンベル=グランジオールとの婚約の話が持ち上がっていたが、王太子の婚約者候補となるべく、その婚約の話を一蹴した。

ところが、王太子が選んだのがペルラ伯爵令嬢だった。そうしてまた、ディンベルに執着し始めた。


ーどこが“清廉潔白”なんだ?“欲”の塊だろうー


自分の手を汚さずに他人を上手く使う。計算高く腹の黒い聖女。それでも今迄の功績があるのも確か。公爵(父親)も上手く立ち回っているから、聖女の醜聞は一切知られる事はなく、()()()の聖女を心配する声しかない。一部の人間を除いては。



「誰?」


監視役の騎士に案内されてやって来たのは、王城の地下にある、貴族専用の牢。貴族専用だから、牢と言ってもそれなりの広さがあり、トイレとシャワールームも完備されていて寝室もあり、牢内も清潔に保たれていて、平民が暮らす家よりも快適に過ごせるような牢だ。質素ではあるが3食出るのだから、監禁ではなく本当に療養扱いだ。

その牢の中に居て、私に声を掛けてきたのが、筆頭聖女クラリーチェ。青色の瞳は光を失ってはおらず、ピンク色の髪も綺麗で、服はシンプルだが清潔感のあるワンピース。悠々自適な生活をしているようだ。


「お前のような者に名乗る必要はないから、自己紹介は省かせてもらう」

「はっ……失礼な者が私に何の用があるの?国王陛下はこの事を知っているの?」

「許可はもらってあるが、おりなかったとしても関係ない」

「……」


ピクッと僅かに反応したのは、監視役の騎士だ。邪魔さえしなければ、彼に手を出すつもりはない。そこそこの手練の騎士だろうが、私からすれば、クレマチスの幼子を相手にするより容易い相手だ。


「少し調べてみたんだが……お前が治癒を施した平民のうちの3割程が、数日中に容態が急変して亡くなっていた。そして、大病を患った貴族の3割程が回復していた。これは偶然か?」

「何を言っているのか分からないわ」

「そうか……なら、呪いや病を転嫁させる闇魔法があるのは知っているか?」

「そうなの?」


治療を求めてやって来た平民に治癒を施した後、その平民に貴族が患っていた病を転嫁させた。転嫁されただろう平民のほとんどが、治癒を受けてから1週間以上経ってからの急死で、平民が故に死因を調べられる事がない為に、聖女との関係が疑われる事はなかった。そして、病が治った貴族からはそれなりの報酬が聖女ではなく、アズバルト公爵の懐に収まっていた。公爵家は、さぞかし潤った事だろう。


「お前は、光ではなく、闇の魔力持ちだな?」

「何を言っているの?私は──」


闇と光は相反する魔力でありながら、対となる魔力でもある。使い手のレベル次第で、闇の魔力で光の魔法に似た魔法が扱えるのだと、とある旅の途中だと言う魔法使いに聞いた事があった。そのお陰で、この女がして来た事を知る事ができた。公爵家への金の流れも掴んでいる。証拠は十分にある。


ー後は、リア()モカ()のお礼をするだけだー


躊躇う事なく、一気に魔力を解き放った。


「っ!?」


私が魔力持ちだという事は、クレマチス家では極秘事項となっていて、クレマチスの継承者だけに引き継がれている。今の段階では、オルフェオだけが知っている。


「闇の魔力持ちなら、何となく分かるだろう?あぁ、私は闇魔力持ちではない」

「何を……」


カタカタと、聖女の体が震え出す。


「数日耐えられれば元に戻れる。たった数日を耐えるだけだ。簡単だろう?健闘を祈るよ」

「なっ……待ちなさい!こんな事が許されるとでも──」


叫んでいる聖女には答える事なく背を向けて、私は牢を後にした。




「……失礼ながら……お聞きしても?」

「何だ?」


牢を出てから声を掛けて来たのは、監視役の騎士だ。


「病を転嫁させる魔法は……本当の事ですか?それによって平民が死んだと……」

「転嫁の魔法は本当の事だ。あの聖女は認めなかったが、病が治った貴族と亡くなった平民があの聖女が対応した者達だったし、対応した時期も重なっているから間違いではないだろうな」

「そうですか……」


ーなるほど。これは国王陛下の計算のうちかー


気の弱い国王陛下だとばかり思っていたが、そうではないのかもしれない。


私の魔力は特殊なもので、その魔力を対象者に当てると、その者の一番の恐れている事が幻覚として現れる。その幻覚は数日繰り返して現れ、精神を少しずつ蝕んでいく。あの聖女が耐えられるか、蝕まれて壊れるのか──よりも早く終わるかもしれない。

おそらく、この監視役の騎士は平民出身の騎士で、身内の誰かが急死しているんだろう。国王陛下も把握していたが、相手は筆頭聖女と公爵。下手に手を下して民からの反感を買いたくはなく、処理に困っていた──といったところだろうか?


「私は1人で戻れるから、案内は結構だ」

「承知しました」

「あぁ……あの聖女の核は、左足首だったな」

「………」


そう呟いてから、背後から走り去る足音を聞きながら、私は1人、城へと歩みを進めた。





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