36 我慢の限界?
私がディンベル様に想いを告げてから、平穏な日々が続く──事はなかった。
筆頭聖女不在となった浄化は、代行の聖女を同行させる事になったけど、予定よりも日数がかかる事になり、予定よりも詰めて浄化をする事になった。
聖女でありながら、闇の力を悪用してしまったクラリーチェ様。それでも彼女は筆頭聖女という事もあって、浄化の力も普通の聖女よりは強かった。ただ、モカに嫉妬して悪い行いを続けていたせいか、光の魔力の力が弱まっていたそうだ。そして、闇の力に手を出した時、光の魔力は殆ど失われていて、闇の魔力に侵食されかけていたらしい。これもまた、ブレイン様がクラリーチェ様を調べてようやく分かった事だったようで、クラリーチェ様の光の魔力が弱くなっていた事も、闇の力に侵食されていた事も、神殿の人達は誰も気付いていなかったそうだ。
ただ、闇の魔力は決して悪いものじゃない。クラリーチェ様が悪い事に闇の力を使っただけ。闇の魔力に悪いイメージを植え付けない為にも、クラリーチェ様の起こした事は、詳細には明らかにされていない。表向きは“体調不良の為の療養”となっている。娘を溺愛している父親の公爵様も上手く立ち回っているようで、今のところ混乱も起きていない。
モカは沈黙したままだけど、ジェンナ様の父親のカサンドラ伯爵様が、このまま黙ったまま居るかどうかは分からない。きっと、黙ったまま終わる事はないと思う。私だって、正直、クラリーチェ様がこのまま何もお咎め無し──なのは納得できない。正直、私の手でもっと仕返ししたい。
「本当に、モカは優し過ぎない?」
「嘘の噂話が広まって辛い思いはしたけど、私の事をちゃんと見て知ってくれてるオリアナさん達が居たからね。それに……」
「リナルド兄さんも居たからね。ふふっ」
「そっ………そうです!!その通りです!」
モカの悩み相談を受けていたらしいリナルド兄さん。脳筋だとばかり思っていたリナルド兄さんも、好きな相手には脳筋だけじゃなかったようで、モカの支えになっていて、今では2人は公認の恋人となっている。リナルド兄さんのデレ顔を拝める日が来るとは思わなかった。
それでも、結果的に誰も命を落とす事はなかったけど、クラリーチェ様がした事は赦される事じゃない。
「私の事より、オリアナさんとディンベルさんの方が……大変ですよね……」
「そうだね……」
まぁ、予想通りと言えば予想通り。リナルド兄さんが味方?なだけマシだと言うべきか?
私─オリアナ=クレマチスは、クレマチス辺境伯家唯一の姫。父である辺境伯の最愛の嫁の忘れ形見でもある。おまけに、腕は立つ騎士だけど、母と同じモモンガ獣人。獣姿は極小だし、人の姿になっても小柄な私。色んな意味で、父と兄達からの溺愛ぶりが半端ない。それは、ディンベル様にも伝えている。だから、想いを通じ合わせた後、私もディンベル様も覚悟はしていた。
『お付き合いする事になりました』
『…………顔を貸してもらおうか』
『はい』
オルフェオ兄さんとリナルド兄さんに報告すると、ニッコリ微笑んだオルフェオ兄さんが、ディンベル様を連れて行った。
『俺が様子を見といてあげるから』
と言って、私の頭をポンポンと叩いて2人の後を追って行ったのはリナルド兄さんだった。それが1ヶ月前。あれからディンベル様には会えてない。その間、私はモカと一緒に討伐に同行しているけど、指揮をとるのはディンベル様じゃなくて、第一騎士団の団長で、ディンベル様は参加すらしていない。団長に聞いても、王太子殿下に聞いても『そのうち復帰する』としか言われなかった。
オルフェオ兄さんは微笑むだけだし、リナルド兄さんは『大丈夫。大怪我とかはしていないから』と、自信満々に答えるだけだった。
「まぁ……そろそろ私も我慢の限界なんだけどね……」
私を大切に思ってくれているのは分かる。分かるけど、好きだと自覚して付き合う事になって嬉しい!と思った途端に1ヶ月も会えなくなって……私が喜ぶとでも?私が寂しい思いをしないとでも思っているのか?
ーディンベル様の手の中でお昼寝したいー
「モカ、リナルド兄さんがどこに居るか分かる?」
「リナルドさんなら───」
モカから情報を得てやって来たのは、王城の訓練場の更に奥にある魔道士専用の訓練場。そこは、結界が張られているせいで、外からは何もないように見えている。でも、実際のところは───
ー結界の向こう側から、僅かにだけど魔力の動きを感じるー
その感じる魔力は、ディンベル様のものだ。
「まずは、どうやって結界の中に入るかだよね……」
「それなら、僕がお手伝いしますよ」
と、声を掛けてくれたのは、ブレイン様だった。




