35 手合わせからの──
スタタタタ───
四足歩行で軽やかに走り抜けて行くモモンガです。モモンガは走るのが結構速い。いざとなれば空中移動もできて便利。少しでも早くディンベル様に会いたくて、モモンガになって王城内を駆け抜けている。そんなモモンガを捕まえようとする人もいるけど、そう簡単に捕まったりなんかしない。
ディンベル様に捕まった時は油断していたけど、今は集中しているから大丈夫。
ーディンベル様は、あっちに居る気がするー
そんな気がするのは、獣としての勘なのか?
暫く走り続けた後、回廊になっている所で足を止めた。その回廊から、パルテンツァ女神の象徴である桜の木が見えた。白木蓮の木も綺麗だけど、桜の木も可愛らしい花が咲いていて綺麗だ。
「そんなにも油断していると、また俺みたいな奴に捕まるぞ?」
『っ!!』
そんなイケボで呟きながら、私を優しく持ち上げるのは1人しかいない。
「また、寝床を探しているのか?俺の手も空いているけど?」
『キュキュ……』
ーやっぱり、ディンベル様の手は温かくて安心するなぁー
スリスリとディンベル様の指に掴まって顔を擦り付けると、頭を優しく撫でてくれた。
ーあぁ……このまま寝て──たら駄目だ!!ー
そこでハッとして、慌ててディンベル様の手の中から飛び出して、人の姿へと戻って、改めてディンベル様の目の前に立った。勿論、服はしっかり着用している。
「ディンベル様、お願いがあるんですけど……」
「オリアナからのお願いなら、できる限りは聞くけど」
「私と、手合わせしてもらえますか?」
「手合わせ?」
ディンベル様は、間の抜けたような顔をした。
*ディンベル視点*
『さっき、西側の廊下をモモンガが走ってて、可愛かったわ』
『俺、モモンガが空中移動してるところ初めて見た』
ーオリアナだろうなー
“聖女モカの側に、モモンガの獣人が居る”
王城内では周知の事実となっている。小さくて可愛いモモンガは、本人は知らないだろうが人気がある。『人の姿になっても可愛い』と言って、最近では騎士達の間でも人気が出て来ている。そんな騎士達には、オルフェオ様とリナルド様が圧を掛けているから、オリアナに声を掛ける騎士は、俺以外には滅多に居ない。
そうして、回廊までやって来ると、桜の木をじっと見ているモモンガが居た。
「そんなにも油断していると、また俺みたいな奴に捕まるぞ?」
と言いながら、モモンガをそっと掴んで持ち上げると、少しビックリしたようだったが、持ち上げたのが俺だと分かると、安心したように指に掴まって頬をすりすりして──
ーこの可愛いモモンガをどうしてくれようか?ー
頭をツンツンと撫でながら、ペットとして飼うのもアリか?と、少し危ない思考に傾いていると、オリアナが俺の手の中から飛び出して人の姿に戻った。
そんなオリアナからお願いされたのが、俺との手合わせだった。
オリアナの実力は、想像以上だった。コルラードとの対峙を見ていたから、一般的な騎士よりも腕が立つとは分かっていたけど、あれはまだまだ序の口だったようだ。小柄な女性という事もあって、一振りの重みはないが、次への攻撃が速い。
「──っ!?」
連続する攻撃を防ぐのにやっとで、こちらから仕掛ける隙が全くない。しかも、オリアナにはまだまだ余裕がある。
「───くっ!!」
カンッ──と、音を立てて俺の手から模擬剣が弾き飛ばされた。
「はぁ……ここまでとは思わなかった」
「ディンベル様、ありがとうございました」
頭を下げて礼をした後、オリアナが俺の目を見てニッコリ笑う。
これでも、俺は第一騎士団の副団長で、実力もトップクラス。団長以外で負けた事はない。オリアナは年下の女性騎士。負けて悔しい気持ちはあるけど、嫌な気はしない。寧ろ──
「ディンベル様、私、そこそこ強いんです」
「『そこそこ』じゃなくて、『かなり』だな」
「私は、護られてるだけで喜ぶような令嬢じゃないんです。好きな人とは横に並んで、一緒に戦いたいんです」
「うん。オリアナならできるだろうね」
ーなんなら、俺が護られてしまうかも?ー
「それで……横に並んで一緒に居たいと思うのが……ディンベル様だと言ったら……こんな私でも受け入れて───っ!?」
オリアナが、最後まで言葉にする前に抱き寄せて腕の中に閉じ込めた。オリアナは小柄だから、俺の腕の中にすっぽりと収まった。
「オリアナの横に並ぶのは俺が良い。俺の横に並ぶのも、オリアナが良い。俺は、どんなオリアナも好きだから」
「躊躇いなく剣を振るうし、あちこち傷だらけで、令嬢らしい事もできないけど?」
「令嬢らしい令嬢が好きではないからね。それは何の問題にもならない」
「モモンガ獣人だけど?」
「モモンガになっても可愛いとしか思えないから問題ない。寧ろ、白木蓮の寝床にさえ嫉妬しそうだから」
「お……おうふっ……」
オリアナが、変な言葉を発して顔を真っ赤にさせた。




