33 顛末
筆頭聖女クラリーチェ様弾劾の日から3日後──
「『お守りとして、何か身に着けられる物を贈ってはどうか?』と、クラリーチェがジェンナ嬢に提案したらしい」
丁度、討伐に同行する事が決まっていた事もあり、ジェンナ様は急いで守護魔法を付与したピアスをオーダーメイドして贈る事にしたそうだ。ただ、出来上がるのがギリギリだったようで、直接渡す事ができずに悩んでいると、クラリーチェ様が『渡してあげるわ』と言って、ジェンナ様がクラリーチェ様に渡していたんだそうだ。
そうして預かった後、クラリーチェ様が闇の魔力が込められた魔石と付け替えて、更に魔獣の好む匂いまで付けてから、討伐当日の朝にルーベン様に渡して欲しいと、オーランド様に頼んだという事だった。
討伐の当日の早朝という事もあり、バタバタとした中でのやり取りで、受け取ったルーベン様も特に何の疑いもなくすぐにピアスを耳に着けて討伐に向かった。寧ろ、婚約者からの贈り物だと喜んでいたそうだ。
『噂話はなんとなく知っていたけど、あくまでも噂話で、誰も信じていないと思っていました』
ルーベン様にとっては事実無根の話で、モカの人となりも知っているから、そんな噂話はすぐになくなるだろう──と、楽観視していた。ジェンナ様が色んな事をしているとは、思ってもいなかったそうだ。
『否定もせず、彼女に何も伝えなかった私も悪かった』
と、反省しながら神殿宿舎での軟禁生活を続けていて、軟禁が解けた後は、モカの専属護衛を辞退するらしい。ジェンナ様との婚約を続けたいそうだけど、貴族同士の婚約で家名にも関わって来るから、どうなるかは分からないと言ったところだろう。
結局は、ジェンナ様がクラリーチェ様に踊らされ、ルーベン様が何もしなかった──結果だった。
クラリーチェ様は、あれから王城の地下牢に入れられたままで、父親の公爵様が何度も面会申請しているそうだけど、国王陛下の許可がおりないそうで、面会はできていないそうだ。
『アズバルト公爵は、クラリーチェを溺愛しているからな。何をしでかすか分からない』
溺愛する娘の為なら、どんな事でもしてしまう程で、過去にも公爵という身分で下級貴族を追いやった事もあるらしく、面会を許可する予定はなく、公爵自身にも秘密裏に監視を付けているそうだ。
その事実をモカに伝えたのが昨日で、伝えたのはリナルド兄さんだった。モカは多少のショックを受けたようだったけど『やっぱりピンク色の髪の聖女は何かがあるんだね』と言った後は、特に取り乱すような事もなくゆっくりと過ごし、今日はいつも通り、聖女としての訓練に勤しんでいる。そんなモカに、リナルド兄さんがベッタリ張り付いているのが、微笑ましい。
「リナルドが、女の子に夢中になる日が来るとは思わなかったなぁ……」
「本当だよね」
しみじみと呟くのはエリゼオ。オルフェオ兄さんは幼い頃から両思いの婚約者が居るけど、リナルド兄さんには婚約者も恋人も居なかった。『恋愛よりも武術』という脳筋だった。
「モカが受け入れてくれたら、私も嬉しいけど、種族や世界を超えてるから、どうなるか分からないよね。でも、エリゼオも、リナルド兄さんの事は言えないよね?今まで、恋人が居たなんて聞いた事ないし」
「……」
と、私もリナルド兄さんの事は言えない。私だって、今までは恋愛よりも自分を鍛える事の方が優先で楽しかったから。それが、召喚に巻き込まれて捕らわれて、色んな事がこんなにも変わるとは思わなかった。勿論、今でも訓練は楽しいし、剣を振るう事も楽しい。でも──
「恋人が居なかったのは、好きな子が居るからなんだよ」
「好きな子!?エリゼオに!?知らなかった!いつから?どんな子なの?私の知ってる子?」
「いつから……気が付いたら好きになってたかな。もう何年になるんだろう?5年くらいかな?笑顔が可愛い女の子で、オリアナもよく知ってる子──かな?」
「おおー」
エリゼオが惚気てる。リナルド兄さんもそうだけど、エリゼオも美男子で令嬢からの人気もすごい。リナルド兄さんは虎獣人で威圧もあるから近寄り難かったりするけど、エリゼオは犬獣人で性格も穏やかだから、エリゼオの周りには性別関係なく人がよく集まっている。私にとっては“優しいお兄さん”の1人だ。
「私が知ってる子か……アルミリオンに帰ったら紹介してね。というか、その子には気持ちを伝えてないの?」
エリゼオから思いを寄せられて、断るような令嬢が居るんだろうか?“クレマチス辺境伯家の片腕”と言われている伯爵家の嫡男で、美男子。断る理由が見当たらない。
「うーん……なかなか伝えられなくてね……最近、更に難しくなったかな?」
「難しい?」
よく分からないけど、その子には、もう誰か良い人が居るという事なのかもしれない。
「オリアナは……聖女のオルグレンでの浄化が終わった後、どうする?アルミリオンに帰るの?」
「勿論、帰る───」
『帰るに決まってる』と言い切るつもりだったのに、私はそこで言葉を詰まらせた。




