32 筆頭聖女②
「魔力は同じ属性でも、人によって微妙な違いがあるから、調べれば誰の魔力なのかが判るんだ。掛けられた魔法からでも痕跡を辿る事もできる。ここに、それができる魔道士のブレインが居る」
ブレイン様は、本当にすごい上級魔道士だ。アルフレード殿下はサラッと言ったけど、魔力の違いの判断や、魔法の痕跡を辿れる魔道士は滅多に居ない。必ず、調べる対象よりもレベルが上じゃないといけないし、かなり繊細な魔法のコントロールが必要となる。
「わたし……は……」
「急に現れた聖女モカに、嫉妬したのか?」
「……嫉妬?この……筆頭聖女の私が、嫉妬なんて……私が聖女となって、どれ程貢献したかはご存知でしょう?ただパルテンツァ女神様に選ばれて聖女となっただけの者に、私が嫉妬するはずありませんわ」
「聖女モカ様に関する嘘の噂話も、クラリーチェ嬢が流したのだろう?」
「流してなどいません」
「あぁ、流してはいなかったな。ただ、話の種を蒔いただけで、後はうまく誘導しただけだったな」
「……」
『ルーベン様はジェンナ様の婚約者なのに、ずっと自分の傍に居させられてるそうだけど、大丈夫?』
『聖女だからと、ルーベン様だけじゃなく、色んな男性と交流を持っているそうよ』
心配するフリをして、クラリーチェ様はただ呟いただけだった。そんな呟きを幾度か繰り返して聞いているうちに、ジェンナ様はその話が本当だと思うようになり、その怒りの矛先がモカに向くのはあっという間だった。
ジェンナ様があちこちでその話をするようになり、モカの嘘の噂話が広まった。
そこで起こった今回の討伐の1件。単純に見れば、ジェンナ様が自分を裏切った2人への報復と捉えられる。ピアスの事がバレたとしても、真っ先に疑われるのはジェンナ様だ。
『自分の手を汚さずに、他人を上手く誘導する』
ーディンベル様の言う通りだったなぁー
「そこまでして、筆頭聖女の座を守りたかったのか?他人を救う力を持っていながら、他人を陥れたり殺めようとするとは……」
「……殿下に何が分かると?殿下も……ディンベルも……筆頭聖女である私を選ばなかった。殿下は田舎領の伯爵家のペルラを選んだ。ディンベルなんてモカのペットの獣人の娘を!あり得ない!私は公爵令嬢で筆頭聖女なのに!選ばれた者なのに!私の物にならないなら、居なくなればいい!ジェンナは本当に良い駒だった。モカとペットと同時に片付けられると───あと一歩だったのに!お前のせいで!」
クラリーチェ様が叫びながら、魔法を展開し始めた。森で浄化をした時は白色の光が溢れていたけど、今は黒い霧が溢れている。あの池の水面から溢れていた霧と同じ──という事は、そこから魔獣が出現する可能性がある。
「アルフレード殿下、お下がりください!」
ブレイン様とディンベル様がアルフレード殿下を背にして護るように立ち、オルフェオ兄さんとリナルド兄さんがクラリーチェ様に飛びかかるけど、防御魔法を纏っているのか、2人とも弾き飛ばされてしまった。
「獣人最強の武人と言っても、魔法では敵わないわよ」
「────そうかな?」
「なっ!?きゃあ───っ!!」
兄さん達を笑いながら見ていたクラリーチェ様の足を払うように蹴って、後ろに倒して胸の上に馬乗りになって押さえつけた。
「防御魔法は、上手く維持させないと隙ができるって知ってた?隙があれば、そこからいくらでも攻撃できるの。今みたいにね」
その隙ができないように──と、みっちりしごかれた。ミリ単位の隙からも攻撃されて、傷だらけになった。溺愛って、色んな意味があるんだと学んだ──のはいつだっただろう?
「モカと私に手を出した者に、仕返ししたいと思っていたの。名乗り出てくれてありがとう。まだまだ足りないけど、後はアルフレード殿下にお任せします」
「感謝する……」
アルフレード殿下から感謝された後、ブレイン様が、クラリーチェ様に魔力封じの魔法を掛けてから転移魔法陣を展開させた。ブレイン様は、いつも仕事が早い。今回は、ブレイン様だけではなく、全てが早かった。
昨日、私が拘束した侵入者の取り調べをしたのはオルフェオ兄さん。日付が変わる前には、知りたい事は全て聞き出せていた。それからジェンナ様の拘束と取り調べも、ディンベル様がサクッと終えていた。それに伴って、ルーベン様とオーランド様は宿舎で軟禁状態。処罰がどうなるのかは分からないけど、混乱を避ける為に、王国内の浄化がある程度落ち着くまでは、公にはしないだろう。聖女クラリーチェ様は、表向きは人気がある聖女様だから。それにしても───
“ピンク色の髪の聖女”
ーモカの言っていた通り、色々と恐ろしい聖女様だったなぁー




