31 筆頭聖女①
「報告会にしては、出席者が少ないのですね」
今日の報告会が延期になった事を知らないクラリーチェ様。いつも側に居る護衛聖騎士オーランド様の姿もない。参加できないと言った方がいい。
「聖女クラリーチェ様には、連絡が遅くなり行き違ってしまったのでしょう。今日の報告会は、事情があって延期になりました」
「そうなのですね。仕方ありません。それでは私は──」
「報告会は延期になりましたが、他にも色々と確認すべき事があるので、聖女様はこのままここに居てもらいたいのです」
「分かりました……」
にっこり微笑みながら、クラリーチェ様に対応しているのはディンベル様。そんなディンベル様に、一瞬少し訝しげな顔をしたけど、そのまま促されて椅子に座った。
今、この会議室に居るのは──
アルフレード王太子殿下、第一騎士団副団長ディンベル様、魔道士ブレイン様、オルフェオ兄さん、リナルド兄さん、エリゼオ、私、クラリーチェ様。
昨日の夜、私はあれからディンベル様達が居る執務室に、侵入者を引き摺ったまま直行した。すると、丁度その部屋にはオルフェオ兄さんとリナルド兄さんとエリゼオとブレイン様が居て、侵入者はブレイン様が魔法を掛けてどこかへと転移させた。それで、私の任務完了──とはいかず、そのまま討伐の時の話を聞かされ、今日の話も聞かされた。その時に聞いた話は、モカにはまだ伝えてないそうで、今日もこの場には呼んでいない。
「さて、まずは、先日の討伐はご苦労様だったね。聖女様達のおかげで綺麗に浄化されて、今のところ問題はないそうだよ」
労いの言葉を口にしたのはアルフレード殿下。魔獣討伐に関しての指揮を執っている。
「ただ、今回の討伐では大きな問題があったそうでね……今から当日の状況確認をさせてもらう」
「問題……ですか?」
アルフレード殿下の言葉に反応したのは、筆頭聖女クラリーチェ様。この場で何も知らされていなかったのは、クラリーチェ様だけ。
アルフレード殿下が、テーブルの上に箱に入ったピアスを置いた。
「これはルーベンが着けていたピアスなんだけど、魔獣を引き寄せる魔法が掛けられている上に、魔獣が好む匂いが付着していたんだ」
魔獣が好む魔力──所謂“闇属性”の魔力。光属性と対になる魔力で、とても珍しい属性だ。ただ、悪い魔力ではなく、至極真っ当な闇魔法使いも居る。ただ、扱える魔法が悪用されやすいから、使い手本人次第と言える属性だったりするだけ。
「だから、森に居た魔獣達が、聖女モカ様とルーベンに集まって来たんだ」
「そ……そんな事が………」
「魔獣討伐に行くのに、魔獣を引き寄せる魔法が掛けられた物を身に着けるような馬鹿な騎士は居ない。だから、ルーベンに確認すると『婚約者からお守りとして貰った』という事だったんだ。その婚約者は、ルーベンの事が、殺すほど憎かったのか……それでも、聖女モカ様を危険に晒すものは見過ごせないから、その婚約者は今、王城の地下牢に監禁している」
「ジェンナ様が……まさか………」
ショックを受けたような顔をするクラリーチェ様。
「確かに、ジェンナ嬢が贈った物だったが、そんな魔法は掛けていないと言い張っているんだ。『私はルーベン様をお慕いしているんです!殺そうとなんて思っていません』とね」
嘘の噂話を信じてモカを陥れようとするくらいだから、本当にルーベン様の事が好きなんだろう。だからと言って、モカを陥れて良いという理由にはならないけど。
「そこで、ルーベンに確認すると、ルーベンは『ジェンナ嬢から直接貰った物ではない』と言っていてね。更に確認すると、確かにジェンナ嬢がオーダーメイドで贈った物だけど、討伐当日に間に合うように大神殿に送っていたんだ」
ルーベン様は王城ではなく神殿に属する騎士で、普段から大神殿の聖騎士の宿舎で生活をしている。あの討伐の日の朝も、神殿から登城していた。
「それでね、その送り届けられた物は、ある聖騎士から手渡されたそうなんだけど、その聖騎士が……オーランド=ペトリアスだったんだ」
オーランド様は、筆頭聖女クラリーチェ様の専属護衛の聖騎士だ。
別に、同じ宿舎で過ごしている仲間だから、届いた物をついでに手渡す事があってもおかしくはない。
「ただ、おかしいのは、その贈り物が神殿に届いたのは討伐の2日前なのに、ルーベンの手に渡ったのは討伐当日の朝だった。どうしてなのか?」
「オーランドが……ルーベンに会えなくて渡せなかった……のでは?」
「同じ宿舎で隣同士の部屋なのにか?」
「それは……私にもよく分かりませ──」
「本当に、分からないのか?よく……考えて答える方が良いよ?」
「……」
穏やかな口調のままで、クラリーチェ様に向けるアルフレード殿下の視線の鋭さが一気に増した。




