30 リナルド=クレマチス
*リナルド視点*
モカ=シミズ
女神に選ばれて召喚されてやって来た聖女。
クレマチス家の唯一の姫で俺達の可愛い妹を、お助けキャラにして捕らえていた。
久し振りに会ったリアは、更に小さくなっていた。それなのに、リアはモカは悪くないと言うから、リアに分からないように、気付かれないように仕返しをしてやろう──と思っていた。
「本当にすみませんでした!!獣人だって知らなかったとはいえ、ずっと縛り付けてしまって!」
公式な場ではなく、たまたま王城内の回廊で出くわした聖女モカに土下座の勢いで謝罪された。18歳とは聞いていたが、見た目はそれよりも幼く見える。今にも泣きそうな顔で、それでも泣くのを我慢している顔だ。その顔を見た瞬間、聖女モカに対する怒りは霧散した。
「リアが赦しているから、俺に謝罪する必要はないよ」
「はい……ありがとうございます……」
少し困ったように笑った聖女モカ。素直に可愛いなと思った。
それから、何度か会って話をするうちに、モカが俺に気を許すようになって、お互い名前で呼び合うようになった。その頃に、モカにはリアとは違う感情がある事に気付いた。
モカを護りたい──
勿論、リアも護りたい存在感だけど、それは妹としてだ。まぁ……俺達が護らなくても十分強いし、俺じゃなくてもオルフェオや父上も居る。ただ、モカは、他の誰でもなく、俺が護りたい。
モカが居ると、気が付けば視線でモカを追っていて、気が付けばモカの所へと足が向いていた。
だからか、あの討伐の時の異変にすぐに気が付いた。
森に居た魔獣は小物レベルだったけど、その殆どがモカとルーベンに向かっていた。
魔獣は光の魔力を嫌う──と何かの本で読んだ事があったが、魔獣が聖女に向かって行くから、光に強い魔獣なのか?と思っていた。
「何かがおかしい」
ディンベルが、そう呟くまでは。やっぱり、光に強い小物レベルの魔獣は滅多に居ないらしい。それから更に注視していると、その魔獣達は、モカではなくルーベンに向かっている事に気が付いた。
ールーベンに?何故?ー
そのタイミングで、エリゼオから魔獣発生の中心地を見付けたから聖女に浄化しに来て欲しい──という報せが入り、俺はモカとルーベンを引き離す為に、ルーベンにこの場の魔獣の対処を頼み、俺はモカを連れてエリゼオ達の居る場所へと向かった。
淀みの中心地では、リアとエリゼオとオーランドが魔獣を倒しまくっていて、筆頭聖女はただただ怯えて立ち尽くしているだけだった。リアの腕前が更に上がったような気がする。
そこからのモカはすごかった。あんなにも綺麗な魔法は見た事がなかった。金色に輝くモカは、理想とする聖女そのものだった。浄化の力も圧倒的だった。あれほどの魔力を使ったのにも拘わらず、浄化を終えた後もモカは怪我人の治癒もしていた。
ー何故、俺は怪我をしていないんだ?ー
怪我をしていないから、モカに治癒してもらう必要がない。そんな事を考えてしまうのだから、もう末期なのかもしれない。と、そこで気持ちを切り替えて、辺りに視線を巡らす。
「…………」
怪我人は数人だけで、筆頭聖女は体調を崩したとかで少し離れた場所で休んでいて、その側には護衛聖騎士のオーランドが控えている。リアはエリゼオと周辺の確認へと行っていて、ディンベルは帰城の準備などを指示している。オルフェオは通信魔道具を使って報告をしている。そして──
「ルーベン」
「はい」
怪我をして休んでいたルーベンに声をかけた。
「お前、そのピアス、自分で買ったのか?」
「これですか?これは……ジェンナから貰ったんです。『お守りに』と」
「お守り?それが本当なら、ある意味大したお守りだな。婚約者とは、うまくいってないのか?」
「え?それはどういう意味ですか!?まさか、あんな噂を信じてるんですか!?」
「噂?どんな噂かは知らないが、そのピアス、お守りどころか……魔獣を呼び寄せていた」
「は?魔獣を……呼び寄せていた?」
獣人は嗅覚が鋭い事が多い。俺もオルフェオもエリゼオもリアもそうだ。それなのに、俺が意識しなければ気付かないほど巧みに加工されている。
「そのピアスから、魔獣が好む魔力と匂いがするんだ。だから、魔獣がお前とモカの周りに集まって来ていたんだ」
「なっ……それは、本当ですか!?」
「詳しく調べてみないと分からないけど、おそらくは……。だから、婚約者とうまくいっていないのか?と聞いたんだ」
そんな物を贈る婚約者だ。うまくいっていないどころか、恨まれてるレベルだ。
「本当に、婚約者から直接貰ったのか?」
「っ!直接ではありません!これは───」
**討伐翌日**
今日は午後から、王城の会議室で討伐の報告会が行われる予定だったが、急遽変更となった。
「報告会にしては、出席者が少ないのですね」
と、変更になった事を知らない筆頭聖女が、会議室にやって来た。




