29 夜の侵入者
初めての討伐で緊張していたのと、力をたくさん使った事もあり、モカは入浴をして夜食を食べた後、すぐに眠りに落ちた。
そんなモカを、私はモモンガの姿で枕元で見ている。私も疲れているようで、今すぐにでも寝落ちできるくらいだけど、色々と気になる事があって寝たくなくて、夜行性のモモンガになって無理矢理起きている。
ーモカの浄化の力はすごかったなぁー
クラリーチェ様の浄化の光も綺麗だった。でも、モカの浄化の光は圧倒的なものだった。金色の光は眩しいほどに輝いていたのに安心できる輝きで、心や体が温かくなった。そして一瞬で淀みが消えた。魔獣の姿もなくなった。森全体の空気も綺麗になった。
状況確認の為に数名残っている騎士達からの報告では、魔獣が出現する事もなく、黒い霧も再発していないとの事だった。一部枯れた土地があったそうだけど、新芽のようなものが生えているとか。これが、女神に選ばれた聖女の力という事なのかも。それでも、レベルアップして、力を自分のものにしたのは、モカが努力をしたからだ。そんなモカを陥れようとしているのは誰なのか。本当にクラリーチェ様なのか。
そのクラリーチェ様の浄化。あの時は、浄化は順調に進んでいた。進んでいたのに、急に淀みが悪化して黒い霧が再発した。クラリーチェ様の浄化の力より淀みが酷かったのか、それとも、クラリーチェ様の浄化の力が弱かったのか。クラリーチェ様の、あの時の怯えたような顔も気になっている。
それと、ルーベン様。モカを護る為の聖騎士なのに、あの場にモカと一緒に現れたのはリナルド兄さんだった。それ以降も、モカはリナルド兄さんと一緒に居て、ルーベン様を見かけていない。モカが私達の所に来る直前まで側に居たそうだけど、エリゼオからの報せを聞いたリナルド兄さんが、モカを連れて来たそうで、モカもルーベン様がどうしているのか知らないようだった。
ー何か隠されてる?ー
そんな事を考えていると、寝室の扉が静かに開かれた。
部屋主が寝ている寝室に入って来るのは、急を要する時か、部屋主が病気の時か朝の起床時のみ。入室して来た者が慌てている様子はないどころか、気配を消しているから、普通の入室者ではない。モモンガのままで枕の陰に隠れて様子をみる。モモンガは夜目が利くから部屋が暗くてもよく見える。
侵入者は王城の一般的な女官の制服を着ている女性。でも、気配を消して動いているから、普通の女官じゃない。左手に短剣を持っているし、あの歩き方だと、足にも何かしらの武器を隠し持っている可能性がある。
討伐が成功して安心している今、少し気が緩んでいるのも確か。女官の制服を着ていれば、こんな時間にここに来ても深く疑われる事はないだろう。
その侵入者はモカの寝ているベッドサイドまでやって来ると、ポケットから出したハンカチで短剣を拭くように撫でた。
「全ては──様の為に───」
「っ!?」
侵入者が呟いた後、短剣を持った左手を振り上げた。
ガツッ───
「ゔ───っ!!!?」
ドサッ
その短剣が振り下ろされる前に、私は人の姿に戻ってその侵入者の首を掴んで後ろに倒した。
「何者?どうしてモカを?」
「ぐっ……だれ……が……っ!!んーっ!!」
侵入者が軽く口を開いたところで、ベッドサイドのテーブルに掛けられていたテーブルクロスを口に突っ込んだ。
「口腔内に何か仕込まれてたら困るから、暫くの間はソレを咥えててもらうわ」
簡単に自害するなんて許さない。トカゲの尻尾切りも許さない。
侵入者が持っていたハンカチで両手を縛り上げて、着ていたエプロンで両足を縛って動きを封じてから、床に落ちた短剣を拾ってサイドテーブルの上に置く。後は──
「何か着る物を……」
はい、こんな緊迫した状況にも拘わらず、今の私は素っ裸。獣から人の姿に戻る時に一番に困るのは、素っ裸になるという事。男はいい。いや、よくもないけど。だから、人の姿に戻る時は、時と場所をしっかり確認しなければならない──のだけど、この世界には魔法があるおかげで、その問題点も解消されている。着ている服を記録、連動させると、獣化して脱げた服を瞬時に回収して保管してくれて、人の姿に戻る時に服を着用してくれるアクセサリータイプの魔道具がある。私の場合はピアス。指輪やネックレスだと、モモンガになった時に外れたりするから、ピアスしか選択肢はなかった。そして、その魔道具は小さい物ほどいい値がするけど、父、2人の兄それぞれから貰って、私は3つ持っている。
ただ、今日はたまたま外していたから、素っ裸で対応する事になってしまった。
「夜で、寝室で他に誰も居なくて良かった」
取り敢えずと、私はクローゼットからモカの服を借りて着ると、侵入者を引き摺って部屋を出た。




