3 失敗しました
私のお気に入りの場所は、クレマチス家の裏庭の奥にある白木蓮の木。そこでお昼寝するのが大好きで、気がつけば夕方──という事もある。そこに居たはずなのに。
今、私の目の前に広がっているのは木でも草でも土でもなく、大理石の床と大きな柱で、天井があって空は見えない。
ただ、白いローブを着た神官らしき人達が見つめているのは、1人の少女と2人の青年で、私の事には気付いていないかも?
神官らしき人達の後ろにも、数名の人達が控えているけど、その人達も、私には気付いていない──ような気がする。
「ここは、オルグレン王国です。この世界を助けていただく為に、神々が貴方方を召喚してくれたのです」
『──っ!?』
“オルグレン王国”
“召喚”
オルグレン王国とは、人間の国だったはず。私の居たアルミリオンとは海で隔たれている。
召喚って、まさか、あの召喚じゃないよね?だって!私は異世界人じゃないし、何か特別な能力があるわけでもない。ただ、その辺の令嬢より、武力に長けているというだけ。
「召喚って……本当に?」
「本当です」
困惑した少女の声に答えたのは、白いローブを羽織っているうちの1人。フードを被っていて顔は見えないけど、声からすると女性。
「ここに召喚される前に、神々から御言葉と加護を与えられませんでしたか?」
「夢……じゃなかった?」
「はい。夢ではありません」
「「…………」」
どうやら、異世界人3人は、三柱の神々に会って召喚されて来たようだ。
ー本当に……召喚されて来たんだー
夢物語かと思ったりもしていた。この世界以外にも世界が本当にあるのか?なんて思ったりもしていた。それが、今、目の前に3人の異世界人が居る。言葉が通じているのは驚きだけど、見た目は私達と変わらない。
「とにかく、異世界を跨ぐと体に負荷がかかると言われているので、ゆっくり休めるように、部屋に案内します。詳しい話はそれからで……あ……失礼しました」
白いローブを羽織った人が、謝罪しながらフードを捲って顔を出した。
ピンク色の髪は後ろでまとめられていて、青空のように澄み渡った青色の瞳の女性だった。
「私の名前はクラリーチェ=アズバルト。この国の筆頭聖女です」
まさかの聖女様。同性の私でも見惚れてしまうような綺麗な顔をしている。
ーはっ!しっかりして、私!!ー
こんな所でゆっくりしている場合じゃない。何故私がここに居るのかは分からないけど、私がここに居る必要はない──という事だけは分かる。誰も私の存在に気付いていないようだから、今ここでこっそり抜け出せば……後は……何とか頑張って……帰るしかない。この姿のままでなら、お金がなくても何とか………なるよね?
チラッと周辺を見渡す。
ここに居る人達が見ているのは、召喚された異世界人3人だけ。神官らしき人達の後ろに控えている人達も、私にはまだ気付いていない。よく見ると、騎士らしき人も居る。そして、もう一度異世界人を見る。
ー召喚されたのが、1人だけじゃなくて良かったー
ホッと胸を撫で下ろす。
ーこれから大変だろうけど、頑張ってー
と、心の中で異世界人達に言葉をかけた後、そろそろと歩き出す。そのタイミングで、異世界の少女が慌ててキョロキョロと辺りを見回しはじめ───私と目が合った。
「見付けた!」
『え?』
異世界の少女が、そう呟いた後、私の方へと歩いて来る。
ー逃げないと!ー
本能的にそう思って、少女に背を向けて走り出した。
「あっ!待って!お願い!!」
『待って』と言われても、素直に待つつもりはない。ここは、私が居る場所じゃないし、捕まったらヤバい気がする。
「お願い!誰でもいいから、その子を捕まえて!」
ーひぃーっ!なんて事を言うの!?ー
少女のその言葉に、今迄私の存在に気付いていなかった人達が、私を視界に捉えた。
数人が私に手を伸ばして来たけど、体格を利用して躱しながら走り続ける。
“鬼ごっこ”という名の訓練は、幼い頃の私にとって楽しい遊びではなかった。鬼に捕まれば1㎞3分以内ダッシュ✕5本やらされた。泣きながら必死で逃げまくった。父を恨んだりもしたけど、私の為を思って──と理解している今では感謝している。
ー後少し!あの小窓の所迄行けば逃げ切れる!ー
「お願い!待って!!」
ー待たないから!ごめんなさい!ー
と心の中で叫びながら、小窓目指して飛び上がる。
『───ぐぇっ!!』
後少しで小窓から外へ──というところで、首根っこを鷲掴みにされてしまった。
「おとなしくしろ」
『っ!?』
その声に、体がブルッと震えて反応する。
ーな……ー
その声がする方に視線を向けると、その声の主が私の首根っこを鷲掴みにしている張本人だった。
水色の髪に碧色の瞳の男性で、服装からすると騎士で、何より──
とんでもなく良い声のする人だった。




