2 プロローグ②
獣人国ーアルミリオン王国ー
ここは、アルミリオン王国最南端の辺境地。その辺境地を治めているのはクレマチス辺境伯。虎の獣人だ。東西南北それぞれに辺境伯が居て、“四天王”や“護世四王”と呼ばれている存在で、最強の武人と言える。
その東西南北の辺境地では、ここ数年で魔獣の出現件数が増えている。それでも、辺境地にはそれなりの騎士達が居て護っているから、特に大きな被害が出る事はない。
そして、今、その事に関しての報告とこれからの対応の話し合いをする為に、東西南北の辺境伯がクレマチスに集まっている。
その中に、私の父と兄も参加している。
エドアルド=クレマチス辺境伯が私の父で、オルフェオ=クレマチスとリナルド=クレマチスが、私の双子の兄。母は、私が10歳の時に病死した。母が居なくなって悲しかったけど、寂しいと思う暇もなく、私は親族一同から可愛がられている。何故なら、クレマチスの家系に、嫁以外の女の子が私しか居ないから。遡って200年程前に1人居たそうで、その女の子以来、私が200年ぶりにクレマチスに生まれた女の子なんだそうだ。
とはいえ、甘やかされたわけじゃない。それはそれは、みっちり丁寧に辺境伯家の者として育てられた。父や兄達の足元にも及ばないけど、女性としては強いと思っている。
女騎士のトップは、北の辺境伯ヴェリア様。四天王唯一の女性騎士で、狼獣人。同性でもあるから、いつも私にはよくしてくれる。私の憧れの人でもある──なんて言うと、兄が『憧れは俺じゃないのか!?』と拗ねてしまうから、口に出して言う事はない。
魔獣の出現件数が増えた事で、私も魔獣の討伐に出る機会が増えた。本でしか知らなかった魔獣達を相手にするのは正直───
ー楽しいー
勿論、恐怖心もある。父や兄達が傍に居るからこそ安心して参加できているのも理解している。
魔獣相手に、どうやって効率良く倒せるか──それを考えて行動する事が楽しい。見た目はともかく、私もクレマチスの血を引いているという事だ。
そんな私の気持ちは置いといて、魔獣が増加している事を放っておく事はできない。魔素の少ない獣人国でこうなのだから、人間や魔族の国では、被害も大きくなってきているらしい。2つの種族の大陸とは海で隔てられているとはいえ、飛べる魔獣や泳げる魔獣も存在するから、獣人国も無関係とはいかない。
既に、友好関係を築いている国に、獣人の騎士を派遣したりもしている。
そうして、最近になってから囁かれ出したのが“召喚の儀”だった。過去の文献では、この世界の神々からの加護を受けて、淀みを浄化して亀裂を封印する力を授けられた者達を召喚する儀式──と記されている。
なんでも、異世界人の方が、この世界の影響を受け難く、魔力の受け入れ容量が大きいそうで、過去にも何度か召喚して世界を救ってもらっている。その周期が平均300年。前回の召喚の記録から言うと200年足らず。平均的な周期よりも早い。そんな事もあって、早めに対処して損はない──とばかりに、各国とも動いているらしい。
ー異世界の人って、どんな感じなんだろう?ー
見た目は同じなのか。魔力持ちなのか。私みたいな獣人も居るのか。機会はないと思うけど、会えたら聞いてみたい事がたくさんある。でも、召喚された側は、どんな気持ちでやって来るのか。過去の文献には、召喚された人達が元の世界に還ったのか還らなかったのか……還れなかったのかは記されていない。私なら、家族と引き離されたら……
ーショックで寂しくて泣く自信があるー
せめて、召喚された後、この世界で楽しく過ごせるようになってくれたら良いけど……そもそも魔獣や戦いに慣れているのか……
「なんて、私が気にして悩んでも仕方ないよね」
獣人国で異世界人を召喚する事はない。召喚するのはいつも人間だ。そして、獣人国の中でも東西南北の辺境伯の関係者が国外に出る事は滅多にない。だから、私が異世界人と会う可能性は0に近い。
「せめて、寄り添ってくれる人が傍に居たら良いけど……って……えっ!?」
そんな事を考えていると、体が光に包まれた。
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あんな事を考えて祈った私がいけなかったのか。
あの時の私は、他人事として考えていただけで、それ以上でもそれ以下でもなかったのに。
あの時、私はお昼寝をしようと、お気に入りの場所に居た。あそこは私以外が入って来る事はない。兄達でさえ入って来た事はない。
『何が……どうなってるの??』
「お待ちしておりました」
「今は混乱されているでしょうが、我々から説明させていただきませんか?」
恭しく頭を下げているのは、金糸の刺繍の入った白色のローブを羽織っている6人の神官らしき人達。
「えっと……」
「ここはどこなんだ?」
「こんな事が本当に起こるとは……面白いね!」
戸惑っている少女と、冷静に辺りを見回している青年と、楽しそうな顔をしている青年。
そして、ここは、私が居た場所とは全く違う場所だった。




