1 プロローグ①
大きな川を挟んだ対岸の林道を、駆け抜けて行く2頭の虎。その後を、1頭の大きな犬が追いかけている。
ー間違いないー
私が間違えるはずがない。あの日からずっと、会いたいと──帰りたいと思っていた場所だったから。それなのに、声も出せないし戻る事もできない。何より、全速力で追いかけても追いつく可能性は皆無。きっと、気付いてももらえない。
ー私はここに居るのに!!ー
あっという間に3頭の姿が小さくなって、私は立ち止まって見送る事しかできなくなった。
ー帰りたいー
一体どうしてこうなったのか。何がどうなっているのか分からない。元の姿にさえ戻れたら、何とでもする自信はあるのに。
『マヒナ』
『──っ!!』
頭の中に響く、その声。その名を呼ばれると、私の体は勝手にその声のもとへと吸い寄せられてしまう。
ー魔法なんて……クソ食らえ!ー
心の中で、悪態をついた。
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この世界には、主に三柱の神が居るとされている。
“パルテンツァ”
人間の創造神と言われ、ピンク色の髪に金色の瞳をした女神。
“オリフェン”
獣人の創造神と言われる白竜。人の姿がどうなのかは知られてはいない。
“アンファング”
魔族の創造神と言われ、黒色の髪に赤色の瞳の神。
この三柱の創造神によって創られた世界で、人間と獣人と魔族はそれぞれの国を創り暮らしていたが、ある時、魔族の国で問題が起こった。魔族の国は魔力の元となる魔素が自然発生しているが、その魔素が異様に濃くなるという現象が多発し、その魔素の影響を受けた魔族が凶暴化し、国内で大きな争いが始まった。その争いは激化していき、人間の国と獣人の国にまで被害が及ぶようになった。
そこで、特に大きな被害を受けたのが獣人達だった。獣人は魔力は無いものの、身体能力は随一だった為、使い捨ての戦闘力として魔族達に使役されるようになってしまった。
それを見かねた三柱の神々。
アンファング神が凶暴化した魔族達を一掃し、パルテンツァ女神が淀んだ魔素を浄化し、オリフェン神が土地の浄化をし、一連の争いに終止符を打った。
それから平和な世界に──とならなかったのが、獣人達だった。あの争い以降、獣人が魔族や人間に秘密裏に売買されるようになってしまったのだ。
どうしても、小さな争いが起きる。争いが起きると、獣人を使役する為に売買されるようになった。獣人がいくら身体能力が高いとは言え、魔法で拘束されてしまえば逆らうことができない。
そんな獣人を憐れに思ったオリフェン神。獣人を保護する為に、獣人の国を魔族と人間の国から切り離す事にした。
陸続きの一つの大陸だった世界に、突如として海が広がり、その海の中心に獣人の国を創った。そうして、ようやく獣人も穏やかな生活ができるようになった。
それから何千年も経つと、他種族間との交易が増えていき、それまで固く閉ざされていた獣人国への道も開かれるようになった。
海を渡るのは船だけだったが、それも年月を積み重ねると船以外の安全な手段も増え、より一層他種族との交流が盛んになり、それにともない色んな人種が増えた。
そうして年月を更に重ねると、また淀みのある魔素が溢れ、そこから亀裂ができ、その亀裂から凶暴化した“悪”─凶暴化した魔族や魔獣─が溢れ出した。しかし、この世界には既に秩序が生まれ、仮令創造神の三柱でさえ、直接手を出す事ができない世界となっていた。
そこで、神々達がギリギリの範囲で救いの手を出したのが、異世界からの“救いの手”の召喚だった。
三柱が直接手を下すと、世界の理が崩れて更に悪化する。ならば、この世界の者ではない者に加護を与えて浄化させる──だった。
そうして、召喚されてやって来たのは、浄化と癒やしの加護を受けた“聖女”と、魔素の淀みをも切り裂ける力を持つ“剣士”達だった。
召喚された者達は、この世界の聖女や剣士達よりも優れていた。そのおかげでまた、この世界は平和を取り戻した。
ただ、この世界に魔素が存在する限り、周期的に淀みが溢れて亀裂が発生する。そうしてまた、異世界から召喚された者達がやって来るようになった。
ただし、魔素が存在するのは、人間と魔族の国だけで、海の中心にある獣人の国には殆ど存在しない為、獣人国で淀みや亀裂が発生した事はない。たまに、魔獣が出現する程度だった。
それが───
「最近、獣人国での魔獣の出現が増えているみたいだな」
「やっぱり、種族が増えると土地も変わってくるんだろうか?」
「獣人でも魔力を持っている者もいるからね」
「でも、今のところ、出現件数が増えているのは辺境地だけのようだね」
「外からの影響を受けやすいからか?」
「海はどうなっている?」
「海は、特に大きな変化はないみたいです」
ここ数年、獣人国でも魔獣の出現件数が増えて来たのだ。




