26 排除対象者
イケボで『一緒に居たい』と言われて、誰が断れるのか。
ディンベル様の手の中は、温かくて安心できる場所なのに、人として対面すると、嬉しいのに緊張する。2人きりでのお出かけなんて、これが最初で最後かなと思っていたのに。また次があると思ったら嬉しかった。
ただ──
「最近、モカの周辺が不穏と言うか……」
「不穏?」
以前からあった噂話。あんな噂話は、モカの人となりを見れば嘘だとすぐに判る。付き合いがなくても、モカは王城と神殿ぐらいしか行かないから、あんな噂話が信じられる事がおかしい。
『聖女モカ様は、相変わらず数名の男性と遊んでいるらしい』
『未だにルーベン様を付き添わせて、ジェンナ嬢の邪魔をしているらしい』
『最近では、聖女の力が弱まってきているとか』
「モカは男性と城外に行った事なんてないんです。それどころか、普通に遊んだりする事もないのに。ルーベン様は、護衛騎士だから傍に居るには居るけど、仕事以外で一緒に居た事なんてないんです」
ルーベン様は4日に1回の休日があるけど、休日にルーベン様とモカが偶然にでも会った事はない。
「モカの聖女の力は弱まってません。訓練を真面目に受けているから、更にレベルアップして、もういつでも動ける状態になってるんです」
浄化や治癒の力が高レベルで安定しているから、いつでも対応できる状態になっている。魔獣には、実戦で見て慣れていくしかない。
ただ、モカは魔獣と戦う必要はないから、周りの騎士達が頑張るだけだ。
ー私もその一員になれたらなぁー
最近は体が鈍って……私の事は置いといて……
「とにかく、モカの嘘の噂話が消えるどころか大きくなってきてて……流石にモカも気にして元気がなくて……」
モモンガの私を撫でながら『癒やされる』と言ってくれるけど、やっぱり元気がない。ハルキとライオネルも様子を見に来てくれるけど、『それはそれで逆効果になるかも』と言って、3人でお茶をする事もほとんどない。
「『聖女としての力が弱まった』というのが本当だったとして、それを知り得る者は限られている。モカ様を指導している魔道士、モカ様の護衛騎士、お助けキャラのオリアナ、それと………筆頭聖女のクラリーチェ」
筆頭聖女クラリーチェ様──
“ピンク色の髪の聖女”を、モカは何よりも恐れていた。色で判断するのはおかしいし、クラリーチェ様は優しくて良い人なんだと思っていた。実際、クラリーチェ様はモカにも優しくて、モカもクラリーチェ様への警戒心を解いて仲良くしていた。
「どうしてクラリーチェ様が?」
「クラリーチェ=アズバルトという女は、地位と名誉に執着するような女なんだ。特に、自分が筆頭聖女だという事にプライドを持っている。そこに召喚されてやって来たのが、自分を超える聖女だ。彼女にとって、モカ様は排除対象になり得る存在だ」
「でも、女神に選ばれて召喚されて来たんですよ!?そんなモカを排除って……」
そんな事をするだろうか?モカはこの世界を救ってくれる聖女だ。そんなモカに手を出したりなんかしたら、一体どうなるのか。
「だから、自分の手は汚さずに他人をうまく誘導してモカ様を貶めているんだ。“自分は清廉潔白な聖女だ”という為にも」
「それと……おそらくだが、それはオリアナにも向いて来る可能性もある」
「え?私?」
「あぁ。さっきので察しているかもしれないが、あの女は俺に執着しているから、俺がオリアナに気があると分かった今、排除対象に入った可能性は十分にある。聖女モカとお助けキャラを揃って排除しようとしてもおかしくはない。いや、絶対排除しようとするだろう」
「………」
「すまない………」
私に謝罪するディンベル様。黙ったままの私を、誤解したらしい。
「謝る必要なんてないですよ。私が怒っているのはディンベル様にじゃなくて、クラリーチェ様にですから。いえ、まだクラリーチェ様がそうだとも、これからそうなるとも分からないけど、もしそれが本当なら、なんてくだらない理由で他人を害そうとするのかなと」
光属性の魔力を持ち、人を助ける力を持った者を“聖女”と呼ぶ。他人を助ける為に使う魔力。聖女自身もまた、無病息災で“女神から恩恵を受けた者”とも呼ばれている。地位や名誉よりも素晴らしいものを持っているのに。
「私が排除対象になったら、私も黙ったままではいませんけどね」
私は黙ってやられるような令嬢じゃない。モモンガだけど辺境伯の人間として、みっちり鍛え上げられた騎士の1人だ。騎士も他人を助ける存在だ。同じ立場の者としても赦せない。
「取り敢えず、暫くクラリーチェ様の様子を探ってみます」
「それなら、俺も少し動くとしようかな。オリアナに手を出すようなら、俺も黙っていられないからな」
「あ……りがとう……ございます」
ーあぁ……本当にイケボ過ぎて辛いー




