25 声
「それよりも気になるのは、あの魔法は禁忌となってから記録からも抹消されて、もう知る者も居ない──と言われているのに、普通の伯爵家の次男坊で、しかも平均並みの魔道士が、どうしてその魔法を知って扱えたのか」
「……」
オルフェオ様の言う通り、国王陛下もその辺りの調査を指示している。上級魔道士のブレインでさえ知らなかった魔法を、コルラードが知っている事がおかしい。
“コルラードのバックに誰かが居る”と考えた方がしっくりくる。
それともう1つの疑問。禁忌の魔法を使ってまで獣人を縛り付けた意図は?コルラードからすれば、聖女モカ様の為にした事だろうけど、それは、寧ろ聖女モカ様の足を引っ張る事でもあった。
「その辺りも調査中です。詳しく分かり次第、報告します」
「そうだね。宜しくお願いします。そっちに関しては、赦す気はさらさらないからね」
そう言いながら放つ殺気が凄まじい。
きっと、コルラードとそのバックの人間は、ただでは済まないだろう。
『ギギッ……』
「あぁ、リア、ごめん」
『……』
これは、怒っている時や威嚇している時の鳴き声らしい。オルフェオ様の殺気に、無意識に反応しているようだ。
「本当に起きないね……」
「これなら、あと数時間は寝ると思う」
「そうなんだね……」
少し不機嫌そうに見える眉間の皺をツンツンと撫でると、今度は寝たままで『プクプク』と鳴いた。これは、機嫌が良い時の鳴き声なんだそうだ。
それから、オリアナが目を覚ましたのは、オルフェオ様と別れて王城の執務室に戻って来てから1時間後だった。
「本当に、爆睡してすみませんでした!」
目が覚めたオリアナは、ずっと俺の手の中で寝ていた事に驚いたようで、すぐに手の中から飛び出して人の姿に戻って頭を下げて謝っている。
「寝ていいと言ったのは俺だから、気にする事はないよ」
「それはそうですけど……それじゃあ……寝床、ありがとうございました」
ふにゃっ──と笑った顔は年相応の女性だ。作ったような笑顔でもなく、判で押したような笑顔でもなく、自然な笑顔だ。それが俺に向けられていると思えば、一層可愛く見えるから、俺も重症だ。
「もういい時間だが、お腹は空いてないのか?」
「はっ!そういえば、お昼も食べてないから、お腹は空いてますね。食堂で何か食べられるかなぁ?」
「時間があるなら、外に食べに行かないか?」
「はい?外に?」
オリアナは、キョトンとした顔で小首を傾げた。
*******
「美味しいー!」
「それは良かった」
今日は週末前の平日。そんな日の夜から週末にかけて、城下の大通りには屋台が立ち並び、外で飲み食いをする人達で賑やかになる。そんな日は、大食いの騎士達も貴族であろうが屋台で買い食いをして楽しむが、貴族の令嬢は買い食いなんてしない。
でも、オリアナは人混みに混ざりながら、チキンのホットサンドを食べて笑っている。
「辺境地にも屋台があるんですけど、お酒がメインだから行く機会がなくて……でも、ここは色んな食べ物があって楽しいけど、選びきれなくて困っちゃいますね」
「これからも来ればいいだろう?いつでも付き合うよ?」
「───え?いや……え?」
ーその反応は、どう捉えればいいんだ?ー
「ここならいつでも一緒に来れる……というか、俺と一緒が嫌なのか?」
「え?いや……じゃないんですけど……大丈夫かな?と思って。ディンベル様って、基本、女性の相手をするのが嫌いですよね?あ、私が“女性”の分類に入ってない?“獣人”だから?なるほど!!」
ー何が『なるほど!!』なのか教えて欲しいー
勝手に理解して笑顔にならないで欲しい。
「獣人だからではなく、オリアナだから誘っているんだ」
「う……うん?」
未だ困惑した顔をしているオリアナに、グイッと顔を近付ける。
「オリアナと一緒に居たいから誘っているんだ」
「っ!!??」
耳元で囁けば、オリアナは顔を真っ赤にして右耳を手で押さえながら上半身を仰け反らした。
「ちっ……近すぎますからね!そ……その声で囁くのは反則ですから!」
「……『その声で』?」
「はっ!!ちが────」
「なるほど……」
どうやら、オリアナは俺の声に弱いらしい。今迄、不意に声を掛けた時に体が震えていたのは───
「モモンガの時に、体が震える程反応していたのは、この声のせいだったんだな。なるほど……」
「えっ!?バレて──じゃないです!」
顔を近付けても反応しなかったのに、声に反応していたのだ。
「この顔が有利にならないとは……」
「それはそれで……じゃなくて……」
「俺がオリアナに好意を持っていて、オリアナも俺の声だけでも好意があるなら、一緒に過ごしても良いんじゃないか?」
「そう……なのかな?でも……私だけが楽しむのも……あの……ちょっと今、心配事があって……その話を聞いてもらえますか?」




