22 お礼②
『モモンガのくせに』
幼少期に、よく言われた言葉だ。辺境地には、主に肉食系の獣人が多い。その中での辺境伯ともなれば、最強の獣人が選ばれる。そこで、現南辺境伯の父と結婚したのがモモンガ獣人の母だった。生まれた子は双子の虎。文句を言う者は誰も居なかった。
そして、次に生まれたのが、女の子で、しかも虎ではなくモモンガだった。
クレマチス家にとっては唯一の姫で、貶めるような人は居なかったけど、外に出ると攻撃の的になるのはしょっちゅうだった。
だから、色んな意味で、父からの溺愛で鍛えられて守られて……逞しい辺境伯令嬢になった。母は可愛いモモンガのままだったけど。勿論、自分がモモンガという事を嫌ったりなんかしていない。母と同じモモンガで良かったと思っている。
仰向けに倒れて呻いているコルラード。更に、さっき蹴り上げたお腹を足で踏み付けて力を入れた。
「ぐぅ───っ……マヒ……ナ」
「馬鹿にしてきたモモンガに、こうもアッサリやられた気分はどう?」
鷲掴みにされたり、力の限りお腹を圧迫してきたり、放り投げられた事もあった。弱い者いじめも甚だしい。ただのモモンガだったら死んでてもおかしくなかった。
「どうしたの?いつもなら、得意な魔法で私を痛めつけていたのに、魔法も使えないの?魔法が使えない魔道士って、魔道士だと言えるの?」
「ぐっ……調子に……乗るな!!『マヒナ我が命により───』あ゛あ゛あ゛───っ!!!」
苦し紛れの様に魔法をかけようとしたところで、お腹を足で更に圧迫して、左の手のひらを短剣で斬りつけた。コルラードの魔法を使用する中心となるのが、左手だったからだ。魔法を使用するには、人それぞれに中心──“核”となる箇所がある。その核から魔力を流して魔法を発動させる。私の場合は右耳。だからなのか、右耳は敏感だったりする。
とにかく、核となる左手に傷を負えば、魔力の流れが不安定になり、うまく魔法も使えなくなる。まぁ、使えたとしても“マヒナ”である限り、もう私を掌握する事はできないけど。
お腹に乗せていた足を外して、今度は左手首を踏み付けた。
「ブレイン様」
「はい!!」
ブレイン様の名前を呼ぶと、今まで姿どころか気配も感じられなかったのに、返事が聞こえたのと同時に姿も確認できるようになった。
ー本当に凄い魔道士だよねー
「お願いします」と言えば「承知しました!お任せ下さい!」と、敬語で返事をされた。
ブレイン様が、コルラードの左手に手を翳し魔法を詠唱すると、そこに魔法陣が刻まれた。その魔法陣が自然と消える事はない。その魔法陣は、核を封印すると同時に、罪を犯した者であるという証明となるものだ。
「コルラード=カシアス。お前は、獣人に禁忌の魔法である従属の魔法をかけた上に、制約の魔法も掛けた。その罪はきっちりと償ってもらう。アルミリオン王国で」
「な───っ!?」
口をパクパクしているコルラード。おそらく、何かを叫んでいるんだろうけど、ブレイン様が魔法で声を奪ったんだろう。
「はい、転送するから、そのままおとなしくしておくんだよ」
ブレイン様がそう言ってから、転移の魔法陣が展開されて、コルラードの姿が消えてなくなった。
「呆気なかった……歯応えがなかった……コルラードって、本当に王城付きの魔道士だったんですか?」
「そこそこレベルですが、紛れもなく王城付きの魔道士です」
「魔法、使えてなかったのに?」
「いやいや……それは、オリアナ嬢が強すぎて使えなかっただけです!」
「ところで、何故敬語なんですか?私の方が年下だと思うんですけど。気軽にして下さい。それと、オリアナと呼んで下さい」
「え……いや……でも……はい……うん。気軽にいかせてもらうね……」
ははっ──と笑うブレイン様の横に居るのは、ディンベル様。
「ディンベル様。遅くなりましたけど、色々とありがとうございました」
「いや……そもそもは、俺が捕まえてしまったからで……申し訳なかった」
ーふぉぉぉ……相変わらずのイケボだー
「それもそうですけど、それ以降は、美味しい物もいただきましたし、気遣ってくれてましたから」
ディンベル様の手の中は、本当に安心できる場所だった。
「餌付けしておいて良かった」
フッ──と軽く微笑んだ顔に胸がキュッとなる。いつもはピリピリしているのに、不意に笑顔を見せられると、そのギャップにドキドキする。
「えっと……取り敢えず、戻りましょうか。兄さん達が突撃して来る前に」
「そうだな」
「そうですね」
帰りが遅いと、心配した兄さん達が突撃して来る可能性が高い。そうなると、面倒な事になるだろうから、私達は兄さん達が待っている部屋へと急いで戻った。
*****
「リアは数日の間はゆっくり過ごすようにね」
と、オルフェオ兄さんに言われて、私は久し振りに人の姿でのんびり過ごす事になった。
「暇だなぁ……」
モカは今日は朝から訓練に行っている。
「散歩でもしようかな」
と、私はモモンガになって部屋から外に飛び出した。




