21 お礼①
*ブレイン視点*
タタタタタッ──
と、目の前を四足歩行で軽やかに走っているのは、モモンガのマヒナ──改め、オリアナ=クレマチス。
数日前まで、ただのモモンガとして、聖女モカ様のお助けキャラとなっていた獣人。しかも、アルミリオン王国の四天王と呼ばれている1つの南辺境伯の姫だった。
南辺境伯の子息のオルフェオ様の殺気は、とんでもないものだった。ディンベルさんの殺気も恐ろしいものだけど、それはまだまだ可愛いものだった。
いかに獣人の騎士が優れているのか、いかにオリアナ嬢が大切にされているのかが分かるものだった。
ーオリアナ嬢が優しい人で良かったー
これで、貴族令嬢あるあるの傲慢な令嬢なら、ディンベルさんと僕はあの場で殺されていたのかもしれない。
プラチナモモンガのオリアナ嬢は、人の姿になっても小柄で、プラチナ色の髪と黒色の瞳の可愛らしい女の子だった。成人しているそうだから、“女性”と言うべきか?
そんな可愛らしい容姿なのに、武力には長けているという。しかも、魔道士コルラードには、自分で仕返しをするから手を出すなと言う。そして、早速仕返しに向かうオリアナ嬢。コルラードは、まだオリアナ嬢が人の姿に戻れるようになった事を知らないだろう──という事で、モモンガの姿でコルラードのもとに向かう事にした。そのモモンガの後ろを、認識阻害の魔法を掛けた僕とディンベルさんが付いて行く事にした。いざという時の為だ。
ーオリアナ嬢に、絶対に掠り傷1つ付けさせないー
コルラード=カシアス
カシアス伯爵家の次男。一般的な普通の魔道士だけど、聖女に関する知識は随一で、それ故に聖女モカ様の指導者に選ばれた。提出された報告書を見る限り、特に問題なく指導し、聖女モカ様も順調にレベルアップしていた。それが、裏ではとんでもない事をしていた。禁忌の魔法まで使っていた。そんな力があるなら、もっと他にも有意義な使い方があっただろう。今更言ったところで仕方無い。もう、何がどうなってもコルラードの最期は変わらないのだから。
*ディンベル視点*
目の前の、軽やかに走り続けるプラチナモモンガのオリアナ=クレマチス。本当に獣人だった。プラチナ色の髪と黒色の瞳は、モモンガの時の色と同じだった。ただ、人の姿になってようやく分かった事もあった。彼女は、かなりの実力者だ。あの兄が言っていた事は、あながち嘘ではなさそうだ。
「ここですね」
やって来たのは、王城敷地内にある礼拝堂。ここに、魔道士コルラードが居るらしい。
「ここには、聖女に関する資料があるから、休みの日にはよくここで過ごしているそうです。今も、この中に居ます。おそらく……地下に」
そう言いながら、ブレインが礼拝堂の扉を開けると、扉の前で立ち止まっていたオリアナ嬢の体がビクッと撥ねた。おそらく、認識阻害の魔法を掛けた俺達の存在を忘れていて、急に扉が勝手に開いて驚いた──といったところだろう。
オリアナ嬢は、キョロキョロと辺りを見回してから、礼拝堂の中へと入って行った。
コルラードは地下に居る──と、伝えていないけど、オリアナ嬢は迷う事なく地下へと進んで行く。野生の勘なのか、コルラードの魔力や気配を察知しているのか……。
地下へと続く階段を下りると、前方と左右に1つずつの、3つの扉があるフロアに出た。そして、オリアナ嬢はその3つのうち、右側の扉の前で立ち止まり、キョロキョロと辺りを見回している。
「うん。あの部屋に居ますね。扉を開けないと……」
どうやら、あの扉を開けて欲しい──というアクションだったようで、ブレインが笑いながらその扉を開けると、オリアナ嬢は迷う事なく部屋に入り、俺とブレインも中に入った。
「誰かと思ったら……何故ここに居るんだ?お前はモカ様の傍に居なければならない獣だろう。何故、魔法が解かれたんだ!?お前はまた逃げるつもりなのか!?もう一度、従属の魔法を──」
と、コルラードが大声をあげながら、モモンガに手を伸ばし捕らえようとした。
「何度も同じ手を喰らう馬鹿じゃないの」
「なっ……お前……人の姿に───」
「あ、やっぱり、貴方は私が獣人だって気付いてたんだね」
オリアナ嬢は、コルラードに捕まる前に人の姿に戻り、短剣をコルラードの首元に突き付けていた。
ーあの短剣と服はどこから?どうなっているんだ?ー
んんっ。そんな事は置いといて──
動きが早くて正確だ。“慣れている”者の動きだ。
「貴方には、色々とお世話になったから、色々とお礼をしなきゃと思っていたの。ようやく人の姿に戻れたから、早速お礼をしようと思って……すぐに見付かって良かったわ」
「何を……たかが……モモンガのくせに!!ゔっ────がはっ!」
コルラードが、後ろに下がって魔法を発動させようとしたところを、オリアナ嬢は間髪容れず、何の躊躇いもなく詰め寄ってコルラードのお腹を蹴り上げた。




