19 清水百花
清水百花
高校3年生の18歳。ごくごく普通の女子高生。父はサラリーマンで、母はパートで、中学2年生の弟とは仲良し。
学校生活も至って普通。陸上部で体力だけはあった。友達とも仲良く過ごしていて、トラブルもなかった。見た目も普通な私には、彼氏は居なかった。
友達に勧められたアプリでラノベを知って、いろんな話を読むようになった。とはいえ、暗記するほど繰り返し読むという事はなく、お気に入りの話を読んでは友達と感想を言い合って楽しむ──という程度だった。
“ピンク色の髪の女はヤバい”
“悪役令嬢は、実は良い人”
“溺愛は見てるだけがいい”
“もふもふは正義”
「獣人が居たら会ってみたい。耳とか尻尾とかもふもふしてみたい。女の子なら、友達になりたい」
「獣人の女の子のツンデレとか可愛いよね」
「獣人の彼氏なんかも憧れるよね」
なんて事を友達と話していた。
転移もので、主人公を助けてくれたりするもふもふや妖精。夢物語。
それが、まさかのテンプレ展開。
気が付いたら、ピンク色の髪の女神に召喚されて『異世界を救って欲しい』と言われた。一方的な召喚とは違って、選択権が与えられた。断って、元の世界に戻る事もできたけど、私は異世界に行く事を選んだ。その対価として、絶対的な私の味方“お助けキャラ”が欲しいとお願いした。
『小さき者が、聖女を助けてくれるでしょう』
あの女神の言う通り、召喚された場所でモモンガのマヒナと出会った。元の世界にも居たけど、実際に見た事はなかったモモンガ。小さくて可愛いのに、しっかりしたお姉さんのようなマヒナ。
ピンク色の聖女との対面は、本当に戦々恐々だった。
クラリーチェ=アズバルト
この国の筆頭聖女で公爵令嬢。でも、テンプレのような婚約者は居なくて、公爵令嬢なのに公爵家を出て神殿で暮らしていた。両親から溺愛されている訳でも、虐げられている訳でもなく『筆頭聖女としての務めを果たす為に──』と言って、毎日祈りを捧げている。誰に対しても優しい。
ーまともなピンク色の髪の聖女もいるんだなぁー
ただ、悩みや心配事が全く無いわけでもない。
私付きの聖騎士ルーベン=トリスタンさん──の婚約者ジェンナ=カサンドラさんだ。2人は所謂、政略的な婚約者なんだそうだけど、ジェンナさんはルーベンさんの事が好きなようで、いつも一緒に居る私の事を良く思ってない──嫌っているようだった。
気が付けば、私は“2人の仲を邪魔する意地悪な女”になっていた。
“聖女モカが、ルーベン=トリスタンに言い寄っている”
“聖女モカが、恋敵のジェンナ=カサンドラを虐めている”
“聖女モカは、晴紀とライオネルも侍らせている”
毎日必死で訓練をしているのに、恋なんてする暇はない。
王城で過ごしているから、ジェンナさんと会うことも滅多にない。
私が晴紀さんとライオネルさんを、侍らせられる訳がない。あの2人は結構な腹ぐ──策士。私如きが丸め込めるような人達じゃない。
『そんな馬鹿な噂を広めた奴、こっちで何とかしようか?』と、2人から言われたけど、丁重にお断りした。
『何らかの対処をさせてもらう』と言う、コルラードさんにお願いしておいた。
コルラード=カシアス
私の魔法の指導をしてくれている魔道士。光属性や聖女に関する知識が豊富で、いつも私を助けてくれる優しい人だ。マヒナにも優しくて、いつでも私のもとに戻って来れるような魔法をかけてくれた。
ただ、最近のマヒナは元気がない。食欲も減って、昼も夜も寝床で過ごす時間が増えた。
『小動物は、獣人の威圧に耐えられない』と、コルラードさんから聞かされて、私はマヒナを護る為に部屋に閉じ込めている。
「それが……駄目だったのかも……」
喩え護る為とはいえ、活発なマヒナを閉じ込めた。
『少し痩せたか?』とグランジオールさんに言われた時はショックだった。グランジオールさんにしがみついて泣き出したマヒナを見て、胸が痛んだ。だから、私はあのままマヒナをグランジオールさんに託した。
「マヒナに謝らないと……元気になったかな?」
コンコン──
「グウェナエルです。モカ様、入っても良いでしょうか?」
「グウェナエルさん?どうぞ」
グウェナエルさんは、大神官の側近の神官で、普段は王都の神殿に居る人だ。
「お久し振りです。申し訳ありませんが、私と一緒に来ていただけますか?」
「はい……でも、どこに?」
今日の訓練は、コルラードさんの都合で急遽休みになったから、時間には余裕がある。
「着いてから説明します」
と言われて、取り敢えず、部屋を出てグウェナエルさんの後に付いて行った。
そうして辿り着いたのは謁見室。中に入ると大神官だけではなく、国王王妃両陛下と獣人の騎士も居た。マヒナとグランジオールさんも居る。
ーえ?私……断罪されるの?ー
一気に血の気が引いた。




